#22
サンパウロ球場工事にFIFAが緊急融資 (2014/4/5)
★3人目の事故で完工を危ぶむ
ワールドカップの開幕試合が行われるサンパウロのイタケィロン球場の工事で3人目の労務者転落事故が起き、完工の見通しがまた危うくなってきた。そのためFIFAのバルキィ専務理が、大会後に球場の持ち主になるCorinthians Clubに6千万レアル(約3千万ドル)の緊急貸し付けをすることを発表したと、4月4日午前10時(現地時間)のテレビ・ニュースが伝えている。
切迫したこの時点で、もはや政府の追加融資は当てにならないとFIFAが判断し、自ら資金を供与して何が何でも開幕戦に間に合わせなければならないと決心したものであろうと解説されている。
この球場の工事は、遅れに遅れていたが、ブラジル側は4月15日までに100%の工事完了を約束していた。しかし、雨天の際に自動開閉する防水布ロールの屋根工事、2万席の増設スタンド(当初4万8千席に設計されていたものを2万席増設して6万8千人収容にする工事)、商業エーリア(商店街と食堂街)、VIP特別桟敷(30室)、場内に設置される大スクリーン(2基)据え付け工事などがたくさん残されていて、4月15日の引き渡しは到底、不可能であることを自ら認めて、FIFAに引き渡し延期を要請したばかりだった。その直後の3月29日に労務者が転落死する痛ましい事故が発生し、労働省労働安全保護当局と警察当局の事故原因検証のため、またまた工事の中断が発令される事態となっていた。
事故死のあった2万席の増設スタンドの工事は、サンパウロ州とサンパウロ市の財務当局が出資してFAST社なる工事会社と直接契約を交わしたもので、球場本体の建設を請け負っているODEBRECHT社は「その部分は検証で工事が中断されることがあっても、他の全体工事は引き続きノンストップで敢行する」と逃げ口上を発表している。しかし労働省監督官は安全対策がしっかりと守られていなかったから次々と事故が発生した訳で,事故検証が完全に終らない限り工事再開は許さないと厳重に警告していた。
また再三再四にわたる投融資に応じてきた国立系銀行も、民間銀行も、州と市の財務当局も、もはや更なる資金拠出は不可能としていた。したがって。事故死が発生した2万席の追加補助席部分の工事だけでなく、すべての工事に影響が及ぶことはまぬかれそうにない。
そこで、FIFAがやむなく肩代わり融資に踏み切ったものである。
★開幕試合のチケットはたちまち売り切れ
開幕戦となるブラジル対クロアチア戦の6万8千席は、発売されたその日の僅か20分間で売り切れたという。もし未完成のまま開幕戦を迎えたら、大混乱になる。
突貫工事で、無理やり間に合わせたとしても、あらゆる部分に不備・欠陥が目立ち、フアンの不満と怒りの種になることは明らかで「W杯史上前例のない世紀の大会を飾る」と常に表明してきたジルマ大統領の言葉とは正反対の「W杯史上前例のない世紀の大混乱大会」になる」おそれがある。
事故死した労務者のクルス(22才)は事故現場を移動する為に安全ベルトを外した途端に足場となっていた鉄板プレートがずれて転落したとされている。近く生まれて来る子供にサッカー選手の名前をつけて、オートバイを買って乗せてやるんだと、それを楽しみに頑張っていたのにと周囲の人々の同情を集めているが、建設関係の全ての機関や担当者たちは、労務者自身の不注意によって起きた事故であると責任逃れに躍起となっていると伝えられている。
サンパウロの球場のほかに、まだ、クリチバ、ポルトアレグレ、クイアバの3球場も完成が遅れている。その3球場からも泣きつかれたら、FIFAといえどもW杯史上かつてなかった不祥事に対応することができるのだろうか?
ホテルはない、航空券はバカ高い、と言われながらも、ブラジル訪問を楽しみにしている人々に水を差すようなことばかりを書くことになって「ようこそブラジルW杯へ」「高橋祐幸のブラジル便り」として始まった私の寄稿も「嘆き節」の連続に終始し「嘆き節」で終わるのかと筆者自身も、すっかり打ちのめされている。
◆「ブラジル便り」に対するご意見・ご感想をお寄せください。 こちらから。
|