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※これは『中条一雄の仕事(5)』(サクセスブック社より2006年5月5日発行)に掲載した同タイトルの記事を転載したものです。


W杯取材記者落第てん末記 (1/3)        
(中条 一雄 2006/10/10)

終わり悪ければ、すべて悪し
私のワールドカップは終わった

 
  私は2006年ワールドカップ・ドイツ大会の取材ができなくなった。日本サッカー協会に取材記者としての資格を「審査」され、不適格と判断され、取材を拒否されたのである。残念でならぬ。
 料簡が狭い、と笑われるかもしれない。
 だが、やはり私は文筆家のはしくれ、この事実と私の感想を書き残しておきたい。
 それだけ、私はワールドカップの取材を強く望み、執着していたということである。本当にがっかりである。

 2005年12月2日締め切りで、私は「取材記者申請書」を提出していた。郵便で万一不着ということが、あってはならないと、締め切りより10日も早い11月22日午後、直接、提出先の日本サッカー協会広報部に出向いた。
  閑散として、責任のありそうな人物が一人もいない。留守番役のような女性が一人いたので「記者生活の命にかかわることですから、係の人に絶対に渡してください」と念を押して置いてきた。
 そのころ、私はまさか外されることはない、と軽い気持ちでいた。友人たちにも「来年6月はドイツに行くから」と広言していた。ヒマな時に寝転んで「ドイツ案内」など、のんびりと眺めていたのだから世話はない。
 ところが、決めるのは簡単だから数日後に返事がくると思ったのに、いつまで待っても返事がこない。
 女性が申請書がどこかに置き忘れられているのか。それなら、締め切りは過ぎているし大問題だぞ。まさかそんなことはあるまい、と思って広報部に電話したら「受け取っている」との返事。じゃあ、待つしかない。

 だが、なかなか来ない。いったいサッカー協会はどうなっているのだ。人の気持ちなんかどうでもいいのか。待ちくたびれた約3週間後の同月21日になって、ようやく一通のFAXが、突如届いた。
 発信元は、日本サッカー協会広報部。その全文を紹介すると

 『謹啓 時下益々ご清祥の事とお慶び申し上げます。平素は本協会の諸事業に対し特別なご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。さて、来年開催される「2006FIFAワールドカップ・ドイツ大会」のメディアアクレディテーションカードの配布につきまして、これまで皆様から提出された予備登録シートの内容を審査してまいりました』
 と長い前文があり、最後に1行。
『その結果、今回の申請をお断りさせて頂く事になりましたので、お知らせいたします。謹白』
 なんじゃ、こりゃ。
 何が謹白じゃ。一瞬頭に血がのぼり、体中の力が抜けて行くのを感じた。拒否されたのか。

 こんな記者の命運にかかわる重大なことなのに、「どういう理由でお断りさせて頂くのか」がまったくない。申しわけないという言葉もない。申しわけないという気持ちすら感じられない。一見ていねい風だが、一方的で高圧的、かつよそよそしく『お断り』しているだけだ。
 記者連中は記者証をもらって、いつも有り難がっているから、自分たちは一段上の偉い人間で、まるで記者を支配していると錯覚しているんじゃなかろうか。人の気持ちをまったく理解しようとしない、まるでお役所だ。暖かい心をもっていない。
 近ごろはお役所でも、こんな文書は出さない。何が「謹白」じゃ。不愉快だ。目下の者に対してでも、こんな前時代的な文書を出していたら民間企業だったら、取引停止だ。
 広報部は、記者にサービスするところだろ。お客さんではないのか。なのにこの心のこもらない官僚性。広報部というところは、かなり頭が固い親切心のない、冷たい連中がやっているんだな。

 「いろいろ努力しましたが、ご希望に沿えなくて、本当に申し訳ありません。若い記者さんに希望者が多く、それに数に限りがあるものですから、何とかやりくりしましたが、当部で話し合った結果、いままで何回もワールドカップを取材された年寄りの方はご遠慮して頂くことになりました。がっかりされると思いますが、お許しください。こころからお詫び申し上げます」
 とでもあれば、受け入れられなくても、まだ理解できたかもしれない。あるいは電話ででも事情を説明するとか。それが親切心であり、礼儀ではないか。住みにくい世の中になった。これがサッカーを50年以上も取材してきた者に対するやり方か。

 もし責任を持って、真剣に(?)審査したのなら、プライドを持って堂々と責任者(部長?)の名前や署名ぐらい入れるべきではないか。しつこいようだが、それほど取材記者にとって、生死にかかわる重大な問題なのだ。「拒否」を、あまりにも軽く考え過ぎていやしないか。
 せめて事前に、「あなたのレベルでは、これこれの理由でパスしませんよ」と予告ぐらいできなかったのか。そのチャンスはいくらでもあったはずだ。それなら少しは早く覚悟を固めることができたかもしれない。基準でも明確に示されて駄目と判っていたら、初めから申請書なんか出さないよ。3週間もいらいらさせておいて。

 ワールドカップは世間の関心が高まるにつれて、最近とくに取材希望者が、ネコも杓子もといった感じで、やたらに増えた、とは聞いていた。
 だが、今年は取材枠が前々回のフランス大会より約2倍に増えたとも伝え聞いた。フランス大会では、無事パスしていたのだから、今度も大丈夫と思っていたのが不覚のもと。落第の憂き目に会うとは。オレも、ここまで落ちぶれたのか。まったく情けない。

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