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サッカーマガジン 2006年9月26日号
ビバ!サッカー

アグレッシブなオシムの戦略

 オシム監督の戦略と用兵は興味深かった。アジアカップ予選の中東遠征2試合のことである。
 この2試合には、考えておかなければならない条件が2つあった。
 一つは、過酷な試合環境である。連戦の日程、第1戦の会場ジェッダの蒸し暑さ、第2戦の会場サナアの高度、でこぼこの芝生など、日本に不利な状況が揃っていた。
 もう一つは、アウェーで無理をすることはない、引き分けでもいいとしなければならない試合だったことである。イエメンにはすでにホームで勝っているのだから、なおさらである。
 こういう条件ならば、まず守りを固めて堅実に試合をすることを考える。守備策から逆襲のチャンスを狙う戦略である。
 また空気の薄い高地の条件やグラウンドの悪さを考えると、グラウンダーのパスを素早くつないで走るよりも、浮き球の長いパスで攻めるサッカーがいい。
 人間が走るには息苦しいけれど、ボールは疲れない。空中を飛ばすのであれば不規則にバウンドすることもない。それが常識的な戦略だろうと考えた。
 でも、オシ厶はどうするだろうか?それが興味深かった。
 テレビで見た限り、オシムは常識的な戦略はとらなかった。「やっぱり」という感じである。
 先発メンバーを見ると、すばやくパスをつなぐ、ドリブルで突破する、というオシムのサッカーを変えるつもりはないようだった。環境条件が変わったからといって、いつもやっているサッカーをがらりと変えると元も子も失う結果になりかねない。「走るサッカー」にこだわるのも一つの考え方だろう。
 しかし、サウジアラビアの守りも、イエメンの守りも、なかなか攻め崩すことができなかった。
 そこで守備ラインから闘莉王を攻めあがらせ。最後に我那覇を投入して、長身選手を前線に立てて「放り込み」をはじめた。新聞には、アイスホッケーの用語を借りて「パワープレー」と書いてあった。引き分けでもいい試合で、リスクをおかしてパワープレーに出たのは理解しにくい。でも、守りに入ろうとして、かえって失点することもよくある。「攻撃は最大の防御」という言葉もある。
 イエメン戦では、最後の総攻撃が実って、ロスタイムに入ったとたんに決勝点が生まれた。オシム監督は、選手に「アグレッシブであること」を要求しているが、自分自身の性格がアグレッシブなんだろう。それが戦略に表れたのだろう。
 ともあれ日本は予選を突破。「終わりよければ、すべてよし」である。


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