アジアカップ予選の中東遠征で気になっていたことがある。それはイエメンとの試合のための高地対策である。試合地のサナアは標高2300メートル。これくらいの高さになると空気が薄い(酸素分圧が低い)ための影響が大きい。日本代表チームは、そのための対策を研究し実行して出かけたのだろうか。
高所順応能力には個人差が大きい。
新聞社に勤めていたときヒマラヤ登山のプロジェクトを担当したことがある。そのとき、がっしりした体格で元気いっぱいのテレビ・カメラマンがチベットのラサに着いたとたんに高山病になった。翌日すぐに飛行機で低地の町へ戻ってもらった。一方で、小柄で太りぎみの写真電送の技術者は標高5000メートルのベースキャンプ生活で最初から最後までピンピンしていた。
高所順応能力は外見からでは見当がつかない。あらかじめ検査をして見分ける方法もない。低地でトレーニングしても効果はない。行ってみなければ分からない。日数をかけて、しだいに高度を上げてトレーニングすればいいのだが、長期の準備期間をとるのは難しい。
というわけで、中東遠征の日本代表に選ばれた24人の選手の中にも、高所に強い者と弱い者がいるに違いない。低地で「90分間走ることのできる選手」が活躍できるとは限らない。
もっとも、ラサは標高約3600メートル。ヒマラヤ登山は、さらにずっと高くまで登る。イエメンの試合地と同じに論じることはできない。しかし、2000メートル以上になるとサッカーでも大きな影響が出ることは、中南米の試合で、よく知られている。1968年に日本がオリンピックの銅メダルをとったときの3位決定戦の会場、メキシコ・シティは、イエメンのサナアとほぼ同じ高度だった。あのときは高地練習をする期間があったし、低地での試合を経てメキシコ・シティに戻ったりもした。
今回は、ほとんど準備期間がない日程の中での高地での試合である。そういう場合には試合の前日に現地に入って、いきなり試合をしたほうがいいという説もある。しかし、日本代表チームは、サウジアラビアとの試合のあと、すぐサナアに入って、現地で2日間、トレーニングをする日程である。
現在は、高地対策のスポーツ科学も進歩しているに違いない。登山や陸上競技では、研究や経験の積み重ねもある。
日本サッカー協会の技術委員会は、そういう知識や経験を十分に取り入れて、日程を組んだのだろうか? それとも、国内日程を消化するのに追われて「やむを得ず」だったのだろうか? |