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サッカーマガジン 2006年9月5日号
ビバ!サッカー

ドリブルが守りをこじあける

 「カミカゼ・ドリブルで強引に突っ込んでみるべきだ」
 記者席で、そうつぶやいたとたんに、羽生がドリブルで突っかけ、闘莉王との壁パスで相手の守りの密集を突破した。シュートは守りに跳ね返されたが、コーナーキックになった。
 その右コーナーキックをアレックスが蹴り、ニアポスト前で阿部がヘディングを決めて、日本に待望の1点が入った。
 ぼくが思ったとおりに羽生がプレーし、それが結果に結びついた。
 もちろん、スタンドのつぶやきが、フィールドまで届いたわけではない。
 また、羽生のドリブルで生まれたチャンスが得点になったのは、たまたまである。日本のコーナーキックは、それまでにも何本もあったのだから、そのうちのどれかからゴールが生まれていても、おかしくはない。
 「でも――」と、ぼくは強引に結びつけた。
 羽生の突破によって、イエメンの守備陣はパニックになった。それをやっと凌いで集中力が途切れた。だから阿部の走り込みを防げなかったのではないか。
 そう考えたのは、それまで、日本は雨あられのように、イエメンのゴール前を爆撃していたのに1点も取れなかったからである。その砲火は、ほとんどが、イエメンの守りの外側からのものだった。中盤からの早めの放り込みもあった。サイドをえぐってのクロスもあった。ミドルシュートもあった。
 イエメンは、1トップを残して、ほとんど全員がゴール前に下がっていた。こういう守りを固めた相手に、外側から放り込んでも、なかなか点は入らないものである。イエメンの守りは、ヘディングをよく競り合っていたし、ゴールキーパーも奮闘した。
 こういう局面を打開するには、強力なドリブルが有効だ、というのが、長年の取材経験で得た、ぼくの持論である。
 この試合(8月16日・新潟)は、アジアカップ予選である。公式戦のホーム・ゲームだから引き分けでは困る。
 だから、守りを固めた相手から、どのようにして最初の1点をとるかがカギだった。その1点が、後半25分に、やっと入ってほっとした。
 1点取れば、相手が気落ちして、あるいは反撃に出ようと守りを薄くして、2点目、3点目が入る可能性はある。しかし1−0でも勝てばいい。
 日本は終了直前にフリーキックから2点目を加えた。しかし、重要だったのは相手の守りをこじ開けた1点目である。そのための工夫が遅すぎたのは、不満だった。


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