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サッカーマガジン 2006年9月19日号
ビバ!サッカー

オシム監督のマスコミ操縦戦術

 「さすがに老練」と日本代表オシム監督の戦術に感心している。試合の戦術ではない。マスコミ対策の戦術である。
 トリニダードトバコとの試合の日本代表チームを8月4日の記者会見で発表した。そのとき「印刷が間に合わないということなので、協会から口頭で発表してもらいたい」と田嶋幸三専務理事に読み上げさせた。それがたったの13人。あっけにとられた報道陣を「みな90分走れる選手だから試合はできる」と冗談で、けむに巻いた。
 実際には、翌日と8日に追加して最終的には19人になったが、この変則的な発表は、日本サッカー協会に対するレジスタンスを報道陣に伝える戦術だった。
 新監督の国際試合第1戦が、8月9日に組まれてあったのがおかしい。同じ時期にA3の試合があり、他のクラブも、それぞれ国際親善試合を組んでいる。だから日本代表に選手を提供できる母体は限られている。練習の期間も3日間しかとれない。16日に新潟で行なわれるアジアカップ予選の対イエメン戦へ向けての「強化試合」であれば、間の12日にJリーグの試合がはさまっているのは不都合だ。そういう非常識な日程を組んだサッカー協会に対する批判を、報道陣に示して見せたものだった。
 試合前日には、千葉で記者会見をした。そのときには「敗北は最良の教師。あしたの試合後、そこから何を学べたか、一定の結論が出るでしょう」と述べた。この発言は、いろいろな意味に取れる。トリニダードトバコは楽に勝てる相手ではない。また日本側は選手の選出や日程などで制約が多く、十分な準備ができていない。だから「負けることもあるよ」と、あらかじめ予防線を張っている。それでも、この試合に一定の意味があると前向きに捉えていることも伝えている。マスコミを通じて、サポーターにも理解を求めている。
 国立競技場での試合後の記者会見でも変わったことがあった。進行係を務めた協会の広報部長が、いきなり「最初に代表質問をお願いします」といって新聞社の記者クラブの幹事を指名した。これは、これまでのやり方とは違う。「最初に監督に、きょうの試合についてのコメントをお願いします」と言って、まず監督にしゃべらせ、そのあとに質問してもらうのが、近年の日本での習慣である。
 実は、オシム監督はジェフのときから、この方法に疑問を持っていて「記者のほうから自由に質問するべきだ」と言っていた。この持論を広報部長にも言ったらしい。それを受けて「代表質問」にしたということだが、代表質問は自由な質問ではないから、オシム監督の持論の趣旨とは違う。
 ともあれ、協会とマスコミを右往左往させる「オシムの戦術」には、油断のならないものがある。


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