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サッカーマガジン 2006年8月8日号
ビバ!サッカー

「ジダンの頭突き」と権謀術数

 「ジダンの頭突き」については、いろんな人が、いろんなことを述べているから、付け加えることもないのだが、ぼくの考えを一つだけ書き留めておこう。
 ワールドカップ決勝戦の延長後半残り10分に、フランスのジダンが後ろを振り向いてイタリアのマテラッツィに歩みより、胸に頭突きを食らわせて退場になった。ジダンは3日後にテレビで「マテラッツィから母と姉に関する聞くに堪えない言葉を再三にわたって浴びせられたのでがまんできなくなった」と釈明した。
 その種の品のない悪口の慣用句があるらしい。
 一つの疑問は、マテラッツィがジダンに悪口を浴びせ続けたのは「術策」だったのではないか、ということである。相手を挑発して怒らせる。怒って乱暴をしてきたら相手にレッドカードが出る。そうなれば味方が有利になる。そういう狙いで挑発した可能性はないだろうか?
 マテラッツィが、そのつもりであったかどうかは、もちろん分からない。ぼくの頭に一瞬、そういう考えが浮かんだだけである。なぜ、そういう邪推がかすめたかというと、欧州のサッカー界に、勝つためには権謀術数を選ばないマキャベリズムが横行しているのではないかと、前から感じていたからである。
 準々決勝のイングランド対ポルトガル戦で後半17分にイングランドのルーニーが一発退場になった。転んでいるリカルド・カルバーリョの股の間を踏んだということだった。ポルトガルのロナウドがそれを主審に「告げ口」してレッドカードが出た。ロナウドは得意そうに、ベンチに向かってウインクしてみせた。それがテレビに映っていた。これも、ロナウドのウインクが、そのつもりであったかどうかは、もちろん分からない。また、主審がプレーヤーからのアピールを受けて判定することはありそうにない。しかしテレビの視聴者が、そのように受け取り、新聞などで取り上げられるのは、欧州のサッカー界に「それも手の内」と思っている人が多いという背景があるからではないかと想像した。
 ぼくは、このような「ずるい手」はよくないと思う。まともなテクニックと戦術を駆使して、フェアプレーで戦ってほしいと思う。
マテラッツィが「ずるい手」を使ったと主張しているわけではない。ジダンの退場に同情するつもりもない。
 頭突きについては、ジダン自身が「ファンや子どもにたちに謝りたい」と言っている。手段を選ばぬ権謀術数がワールドカップで展開されるのは、頭突き以上に、世界の子どもたちに悪い影響を与えるだろうと思う。


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