ベスト8が欧州勢と南米勢で占められたので「アジア、アフリカは後退した。世界のサッカー地図はまたもとに戻った」という議論があるらしい。そういうテーマで、日本でトークショーをするという知らせをメールで受けとって、びっくりしている。
現地で試合を見てまわっているぼくの印象は、まったく違う。技術、戦術面ではアジア、アフリカ勢と欧州・南米勢の差は縮まっている。4年前の日韓大会と違って番狂わせがなかっただけである。
この大会の前半戦のできばえだけから見ると、ブラジルとドイツがいい。ベスト16までの段階では七、八分の仕上がりだが、後半戦へ余力を残している。アルゼンチン、イングランド、フランスが、それに続いている。このあたりまでが、世界のトップレベルである。
こういうチームにアジア、アフリカ勢はまったく歯が立たないかというと、そんなことはない。ベスト8までの段階でブラジルは1失点しかしていないが、それは日本の玉田のゴールである。ラウンド16の試合で、ガーナはブラジルに3−0で敗れたが、個人のボール扱いや組織的な攻めの鋭さでは、ひけをとらなかった。こういうふうに見ると個人の技術や戦術能力の差は縮まってきている。
とはいっても、ブラジルやドイツと日本やガーナとの間には、決定的な違いがある。その違いは、サッカーについての伝統や文化の厚みの差からきている。
ブラジルの選手たちは欧州各国のクラブに散らばってプレーしている。その選手たちがワールドカップのために集まって代表チームを作る。そして試合を重ねるごとにまとまってきて、ブラジルらしい風格のチームになる。選手たちには、子どものころにブラジルの風土で育ったサッカーの感覚がよみがえってくる。
ロナウジーニョやカカーは、ワールドカップを楽しんでいるように見える。バルセロナやACミランでプレーしているときよりも、ずっとリラックスしているのではないか。試合前の練習で5対5のボールの奪い合いを、子どもの遊びのように、はしゃぎながら楽しんでいる。
ドイツについても、同じようなことが言える。こちらは、楽しんでいるというより、全国のサポーターとともに盛り上がっている。試合ごとに気力が満ち、スピードと正確さが結びついてきている。伝統的なドイツのサッカーがよみがえっている。
アジアやアフリカも、やがては、このような伝統と文化の厚みを持つようになるのだろうか。その日が来ないと、差は縮まっても乗り越えることは出来ないのではないか。そう思った。
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