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サッカーマガジン 2006年5月2日号
ビバ!サッカー

巻をドイツへ連れて行きたい

 「巻誠一郎を連れて行きたい」
 「どこへ?」
 「ドイツのワールドカップヘ!」
 「出番はあるかな?」
 こんな自問自答を心の中でつぶやいた。4月12日、ヤマザキナビスコカップのジェフユナイテッド市原・千葉対アルビレックス新潟を見に行ったときである。 
 キックオフから2分。ジェフが新潟のゴール前へ攻め込んだ。ペナルティー・エリアの中で、長身の巻がダッシュした。 
 そのときだ。 
 新潟のディフェンダーが、巻のシャツを両手でつかんで引き止めた。 
 巻はかまわず、強引に引きずって前へ出ようとした。 
 それでも、ディフェンダーは、つかんだまま放さない。 
 巻はもんどりうって、グラウンドに倒れ、しばらく起き上がれなかった。 
 反則で止めようとしたディフェンダーはけしからんけど、巻の強引さはいいね。ちょっと、つかまれただけで、大げさに倒れてアピールしようなんて、けちな気持ちは、かけらも見えない。 
 新潟に2度にわたってリードされる苦しい展開のなかで、その後も、巻は走り回ってがんばった。その姿勢がいい。 
 ドイツのワールドカップに行く日本代表メンバーをジーコ監督は、そろそろ決めているはずだが、攻撃の最前線のストライカーは、ぼくには見当がつかない。 
 候補は、たくさん出てきているが「おびに短し、たすきに長し」である。いや、ツートップだから「おび」1人、「たすき」1人でいいのだが、最後をきちっと締める「おび」に決定版がない、というところだろうか。 
 ストライカーに必要な要件は、すばやい動きと強力なシュート力だと思われている。それはそれで間違いではない。でも、もっとだいじな要件がほかにあると、ぼくは考えている。その一つが、ゴールをめざすメンタリティである。 
 ストライカーは、相手にきびしくマークされる。そのプレッシャーに耐え抜いて、振りほどき、振りほどきしながら、シュートのチャンスを待たなければならない。それには、粘り強く、がんばり続けるメンタリティが必要である。 
 ジェフと新潟の試合で、巻は後半37分にヘディングで決勝点をあげた。だけど「ドイツに連れて行きたいな」と思ったのは、ゴールをあげたからではない。 
 試合会場の千葉フクアリに、サポーターが「勝利のメンタリティ」と書いた旗を張り出していた。ジェフのオシム監督が強調したことばである。 
 巻は「勝利のメンタリティ」をもっているように思う。


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