「ごちゃ混ぜのなかから強いサッカーが生まれたんだよ」というのが、セルジオ越後さんの意見だった。「世界のサッカーとその文化」と題したシンポジウムを4月2日に東京ガーデンパレスで開いた。そのときの話である。
ブラジルは世界のいろいろな民族が混じり合ってできている国である。イタリア系もいれば、ポルトガル系もいる。色の黒い人もいれば、日系人のような黄色い皮膚の人もいる。そういう人たちが、ごちゃ混ぜになって、自由に競争している社会である。そこに独特の文化が生まれ、その特色がサッカーチームにも反映している。そういう話だった。
このシンポジウムは、ぼくたち「ビバ!サッカー」の仲間で開いたものだ。セルジオは友情参加してくれた。仲間のなかからは、ドイツの専門家である駿河台大学教授の明石真和さんがパネリストになった。
「ドイツ人は理詰めに考えてものごとを組織する。サッカーも、協会が理詰めで検討した指導法で統一しようとする。だから、どのコーチの指導書を読んでも金太郎アメの切り口みたいに同じだ」
ブラジルとは、まるで反対だが、それでもドイツは、ワールドカップですばらしい実績を残している。なぜか?
「実はベッケンバウアーをはじめ、黄金時代を築いたプレーヤーたちが子供だったころのドイツは、敗戦後の荒廃した時代だった。統一した指導法どころか、練習を受けられる場所もなく、町の通りで勝手にボールを蹴って遊んで育った」
ばらばらに育った個性が違う選手たちに、それぞれ役割を分担させて合理的にまとめた。それが西ドイツの黄金時代を作った。まずごちゃ混ぜがあり、のちに組織が加わったというわけである。
日本については、ぼくの昔からの仲間である大住良之さんが語った。
「日本のサッカーは学校中心で発展してきた。そのよさを捨てる必要はないが、学校では自由な競争によって、すぐれた素材が伸びる機会は少ない」
学校では全部の生徒をちゃんと教育しなければならない。だから、ごちゃ混ぜにやらせるわけにはいかない。
「でも社会が変わり、Jリーグができてようすは違ってきている。これからは日本も競争の時代だ」
こんな話からはじまって、実に示唆に富む、おもしろい議論になった。
コーディネーターをつとめたぼくは、心の中で考えた。
「日本サッカー協会は、英才を集めて統一的に教育するシステムをはじめているけど、サッカーを豊かにするためには、ごちゃ混ぜが必要じゃないのかな」
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