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サッカーマガジン 2006年4月11日号
ビバ!サッカー

野球でも「テーハンミングッ!」

 野球の世界一を争うと銘打ったワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBC)で興味深かったのは韓国の応援だ。「テーハンミングッ!」の連呼が米国の球場からテレビの画面を通じて聞こえてきた。
 この韓国式応援は2002年のワールドカップのときに始まったものである。
 韓国のサポーターのグループ「レッドデビル」の創設者たちが「いい応援の方法はないか」と相談して「テーハンミングッ」、つまり「大韓民国」と国の正式名称を連呼することを思いついた。「叫びやすいことばを考えたので、とくにナショナリズムは意識しなかった」とレッドデビルの創設者の一人から直接きいたことがある。この応援方法はインターネットやテレビを通じて、たちまち韓国各地に広がり、ワールドカップの韓国の試合のときには全国で数百万の人びとが、街頭に出て「テーハンミングッ!」を連呼した。ソウル中心部の市庁前広場が、その群衆で埋まっている光景を、当時テレビで見た人も多いだろう。
 この応援については、当時韓国に留字していた森津千尋さんが調べて「ワールドカップのメディア学」(大修館書店)のなかで報告している。この本は、ぼくたちスポーツ・メディア研究の仲間が、2002年について調べたことをまとめたものである。
 その応援が4年後に野球でも使われたわけである。ワールドカップのときと同じように、WBCの韓国の試合のときにソウル市庁前の広場が群衆で埋まった。その写真が日本の新聞にも載っていた。トリノの冬季オリンピックでも「テーハンミングッ!」が聞こえたそうだ。サッカーの応援として始まったものが韓国のスポーツ文化として広がっている。
 日本の応援方法には「ニッポン! チャ、チャ、チャ!」がある。これは代表チーム応援のグループ「日本サッカー狂会」が、1968年のアーセナル来日のときに考えたものである。その後、バレーボールの国際試合でよく使われたのでバレーボールのものだと思っている人も多いが、元祖はサッカーである。狂会は「フットボール」という雑誌を発行していて、その由来を誌上に書いている。元祖の証拠は明白だ。しかし、日本のスポーツ全体の文化としては定着していないようだ。
 WBCでは王貞治監督の率いる日本が優勝した。日本の野球界にとっては大きな収穫だった。韓国も予選と1次リーグで2度も日本を破り、レベルの高さを示した。そのうえ「テーハンミングッ!」の応援が定着していることを見せてくれた。これは、ぼくにとっては収穫だった。


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