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サッカーマガジン 2005年11月1日号
ビバ!サッカー

猛虎株上場?サッカーでは

 「阪神タイガースの株を上場しよう」という提案が飛び出して、プロ野球界はハチの巣をつっついたような騒ぎになった。これは「ヒトごと」ではない、サッカーにだって起こり得ると、ぼくは心配になってきた。
 巨額の資金を運用している「村上ファンド」が、阪神電鉄の株の4割近くを買い占めて大きな発言権を持つようになった。そのファンドを率いている村上世彰さんが「タイガースの株を上場してはどうか」と提案したので「たいへんだ」となった。「スポーツを投機の材料にさせるな」「タイガースはファンのものだ」と反発する意見が新聞に載っていた。
 でも阪神球団は株式会社で阪神電鉄の100パーセント子会社である。経済的、法律的にはタイガースは阪神電鉄のもので「ファンのもの」ではない。
 この問題は複雑で新聞の経済面、スポーツ面、社会面をくまなく読んでも分かりにくい。それでも「Jリーグのクラブに同じような問題はないのだろうか」と考えてみた。
 Jリーグの各チームのクラブも、おおかたは株式会社である。ほとんどは株を持っている「親会社のもの」で「ファンのもの」ではない。形はタイガースと同じだ。
 この株を上場すれば、つまり一般に売り出せば、ごく一部分ずつでもファンの所有にするチャンスができる。これは夕イガースについて、村上さんが主張していることである。ただし、これが村上さんの本心かどうかは分からない。
 株が一般に売り出されると別の問題も生まれる。所有者が分散すればクラブの運営が不安定になるおそれがある。逆に特定の大金持ちに買い占められて「ファンのもの」から、ますます遠くなることもある。イングランドでは、マンチェスター・ユナイテッドで実際にそういうことが起きている。さらにスポーツに関心のない人が投機を目的に株を売買して、運営を混乱させることも考えられる。
 というようなことを、いろいろ考えて「スポーツクラブの法的地位として株式会社が適当かどうか」を改めて検討してはどうかと思った。地域に根ざしたプロ・アマ共存のスポーツクラブにとって、もっと適当な法人格はないのだろうか。
 ともあれ、法律的、経済的にはともかく、社会的にはタイガース球団は「ファンのもの」でもある。
 サッカーのクラブは、地域の人びとのものであり、ファンのものであり、チームのサポーターのものであり、プレーヤーたちのものであってほしい。
 それを具体化できるような法人組織は考えられないだろうか。


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