「W杯予選、誤審で再試合」というニュースを読んで、ぼくは非常にびっくりした。ミスをした主審が日本人だったからではない。試合中の審判の決定をFIFA(国際サッカー連盟)が覆したことに驚いたのである。「競技中の主審の決定は最終で抗議などによって変更することはない」というのが、このスポーツの考え方である。そう信じていたのに違った。それで驚いたのである。
誤審があったのは、9月3日にタシケントで行なわれたウズベキスタン対バーレーンの試合だ。アジア予選のプレーオフ第1戦である。ウズベキスタンがペナルティーキックをけったときに、キッカー以外のウズベキスタンの選手がペナルティーエリア内に入っていた。そのため主審はゴールを認めなかった。
そこまではいい。問題はそのあとだ。ルールではペナルティーキックのやり直しである。ところが、主審が勘違いをして相手のバーレーンの間接フリーキックでプレーを再開してしまった。
試合は1−0でウズベキスタンが勝ったのだが、このルール適用ミスを理由にFIFAが再試合を命じたというのである。
ウズベキスタンは勝っている試合を主審のミスで無効にされたことになる。やり直しのペナルティーキックが行なわれて、それが決まっていれば2−0になったところだが、勝った試合を無効にされるくらいなら1−0のままのほうがいい。もっとも第2戦のあとで得点合計によって次のラウンドへの進出権が決まることもあり得る。そのことを考えてウズベキスタンは「主審のミスで追加点できなかったのだから3−0として扱え」と主張したらしい。それがやぶへびになった。これまでにない珍妙なケースである。
審判の問題で試合が無効になった例は過去になかったわけではない。主審の人種的あるいは宗教的偏見がフエに影響したとして問題になった話を読んだ記憶がある。たしか第2次世界大戦より前のことである。でも審判の技術上のミスの場合は主審の決定を最終のものとするのがサッカーの考え方だった。大げさに言えば哲学だったのではないか。それとも今回のような明らかなルール適用の誤りの場合は話は別なのだろうか。
今回ミスをした主審は、次にアジア・チャンピオンズリーグの準々決勝の主審に割り当てられていた。アジアサッカー連盟(AFC)は、それを取り消した。これは当然の措置である。審判上のミスがあっても結果は覆さない。しかし、審判員に対する事後措置は内部できちんとする。これは、これまでの国際大会で見聞していた例と同じである。
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