日本代表がドイツへの出場権を決めた翌日、新聞はみな柳沢と大黒を大きく取り上げていた。ゴールを決めた選手をマスコミがヒーローにする。それは、それで仕方がない。
しかし、ぼくは稲本潤一に注目した。「かげのMVP」と言ってもいいんじゃないかと思った。6月8日にバンコクで行なわれたワールドカップ・アジア最終予選、北朝鮮との試合をテレビで見ての話である。
稲本は得点場面にからむプレーをした。でも評価したいのは、それだけだからではない。稲本は試合を通じて日本の中盤をリードしているように見えた。これは、この試合の、もっとも大きなポイントだったのではないだろうか?
この試合では、ヒデと俊輔がイエローカード累積2枚で出場できなかった。中盤のリーダーだったプレーヤーが2人とも出られないのは痛い。この北朝鮮戦の場合は、なおさらだった。
日本は引き分けでもいいが、できれば勝って出場権を飾りたい。だから、まず守って、そして機をみた攻め込みである。またボールをしっかりキープして相手のプレーする時間を少なくすることも重要である。
守りは守備ラインだけでなく中盤からしっかり押さえて相手の逆襲速攻の芽を摘まなければならない。攻めでは、ボールをキープしながら、どのようなチャンスに、どのような形で前線へ攻め込むかを判断しなければならない。それは主として中盤のプレーヤーの役割である。
ヒデと俊輔の代役として稲本と小笠原が起用された。2人のうち、どちらが中盤のリーダーシップをとるか、あるいはどのように役割分担するかを注目していた。
稲本は中盤の守備的なポジション、いわゆるボランチだったが、前半から比較的前のほうに位置をとって、相手の攻撃の芽を摘もうとしていた。またチャンスを見て、前線のサイドにも進出し、シュートも狙った。
後半、ジーコ監督が前線に大黒を起用して相手の守備ラインの裏側のスペースを突かせようとしはじめると、すぐ、その意図を理解した縦パスを的確に送りはじめた。
技術があり、判断力があり、積極性がある。それが勝利に結びついたから、ビバ!サッカー推薦の「MVP」である。
スポーツ新聞が一人ひとりの選手の採点を載せている。あるスポーツ新聞では後半から出た大黒に8点をつけて、殊動の先取点をあげた柳沢は7点たった。他の選手は大部分が6.5点である。ところが稲本は1人だけ評価が低く5.5点である。
この種の採点は、別に権威があるわけではなく、一種の「お遊び」に過ぎないだが、それにしても「それはないんじゃないの」という感じである。 |