朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)対日本の試合が、観客を入れないで、しかも第3国で行なわれることになった。本来は6月8日にピョンヤン(平壌)でやるはずだったワールドカップ・アジア最終予選の試合である。
これについてマスコミの多くは、日本に有利かどうかに焦点をあてて解説していた。日本代表チームは、青色のサポーターの歓声のなかで戦うことになれている。静まりかえったスタジアムでは戦いにくいだろう。国際サッカー連盟(FIFA)は、北朝鮮のサッカー協会を処罰するつもりだろうが、かえって北朝鮮チームに有利になったのではないか。
こういったたぐいの論評である。
そんななかで、5月4日付けの日本経済新聞に武智幸徳さんが書いた「ピッチの風」の指摘は出色だった。FIFAの規律委員会は、北朝鮮を処罰するとともに、日本に有利になりすぎないようにも配慮したのだという論旨である。この試合の結果は、同じB組のイラン、バーレーンにも影響する。日本にいちじるしく有利な処置をするのも不公平である。
内容をここで詳しくは紹介できないので、日経をとっていない人は図書館にでも行って読んでもらいたい。
十数年前に「無観客試合」を見たことがある。新聞社のスポーツ記者だったとき欧州出張中にたまたま経験した。当時の欧州カップの2回戦くらいの段階で、場所はイタリアの町だったように思うが、よく覚えていない。
今度のケースと違うところは、場所がホームチームの地元だったことである。お客さんを入れないのだから、大きなスタジアムではなく古い小さな競技場で、がらあきのスタンドに囲まれて試合をしていた。観戦しているのは記者席の十数人だけである。そこに、ぼくがたまたままぎれこんだわけである。緊張感のない退屈な試合だったと記憶している。
これも、前に観客が騒ぎを起こしたことに対する処罰だったが、無観客にしたねらいは、地元チームを不利にすることではなくて、地元クラブの入場料収入を失わせることにある。チームへの処罰ではなく、試合を運営するクラブに対する一種の罰金である。
ピョンヤンの場合、第3国に会場を移したのは、FIFAが北朝鮮サッカー協会の試合運営能力に問題があると、みたからだろう。その点も、武智さんはきちんと指摘している。
ただし、この点はFIFAが厳しすぎたと、ぼくは感じている。北朝鮮サッカー協会に能力はあるはずだ。ピョンヤンで「無観客試合」をしてもよかったのではないか。
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