「ジーコはついてるの?」
試合後の監督記者会見が始まるのを待っているとき、ぼくは仲間の友人たちに冗談を言った。2月9日に埼玉スタジアムで行なわれたワールドカップ・アジア最終予選の第1戦、日本代表が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)チームに勝ったあとである。
後半のロスタイム、引き分け寸前の決勝点がジーコ監督を救った。「これは単なる運とは言えないよ」というつもりの冗談だったのだが、そのあとの会見でジーコ監督に対して「あなたは、自分が強運に恵まれているのはなぜだと思うか」という質問が実際に出た。この1年の間に幕切れ直前に救われた試合が何度もあったのだから「ついている」と思われても不思議はない。
でも、ぼくは「勝利は努力の結果」だと思っている。努力しても不運で負けることはあるが、努力しないで勝利を得ることはできない。
監督にも選手にも、いろいろな努力があっただろう。その中でジーコ監督の今回の用兵について言えば、よく考えた末の決断だったと評価したい。
イタリアから呼び戻した中村俊輔を中心に据えずに小笠原に先発のチャンスを与えた。その前の国際親善2試合で小笠原は攻めの中心として先発し、チームは2連勝した。その勢いを生かしたいという狙いだろう。小笠原先発でいくことを前日に公表した。本人に責任の自覚を求めるサインになったはずだ。
小笠原はみごとなフリーキックで、前半4分の先取点をあげたものの、その後は、チームのリズムを立て直す仕事を十分にはできなかった。試合の重要性と相手の厳しい詰めがプレッシャーになっていたように思う。ぼくが予想していたとおりである。
俊輔は試合同日に欧州から合流するきびしい日程だったから、体調が万全でないことは想像できる。ジーコは「今回は先発ではないが、20分やってもらうつもりだ。その20分に全エネルギーを注いでほしい。5分かもしれない。5分を全力でやってほしい」と話して「理解してもらった」という。後半21分に俊輔が登場してからリズムはがらりと変わった。
高原と大黒の起用についても、よく考えた末の決断だと思う。「人事を尽くして天命を待つ」というのが、ジーコの心境ではないかと想像している。
「なぜ強運に恵まれるのか?」という質問をジーコはさらりとかわした。「ぼくの長年の経験では、勝負は最後の5分で決まることが多いんだ。相手の足に乳酸(疲労によって生じる物質)がたまっているからね」
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