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サッカーマガジン 2005年1月25日号
ビバ!サッカー

ヴェルディの天皇杯をことほぐ

 新春、東京ヴェルディの天皇杯優勝をことほぎたい。「ことほぐ」とは、言葉に出して祝福するという意味だが、ここでは文章に書いて祝福する。
 元日の決勝戦のあとの記者会見。アルディレス監督の第一声は「この優勝は貴重なステップだ」だった。ぼくの考えとまったく同じだったので「その通り」と心のなかで相づちを打った。
 「ステップだ」という表現には、二つの意味がこめられている。
 第一は、この優勝は「目標達成」ではなく目標への途中だということである。目標はリーグで優勝を争う力を持つチームを作りあげることである。
 第二は、目標達成のために、ここで優勝という段階を踏んでおくことが、ぜひ必要だったという意味である。この経験は「自分たちが、いまやっているサッカーで、上位の相手と戦って勝つことができる」という自信を生む。
 決勝戦を見ながら、ヴェルディの若い選手たちが、積極的に、のびのびと戦うのに驚いた。
 ボールを持つと相手は2人がかり、3人がかりで取り囲んで奪いにくる。いまでは珍しくない中盤からのプレス・ディフェンスである。
 この厳しい守りをかわすためには、ワンタッチで素早くパスをつなぐべきだと、よくいわれる。相手が詰めてくる前に、ボールを他の味方に渡して攻めるのがいいというわけである。
 ジュビロ磐田の厳しい守りに対して、ヴェルディも、このようなスピーディーなパス攻撃を狙っていた。
 しかし、ぼくが感心したのは、相馬、平本、飯尾などの若い選手が「自分でかわせる」と感じたら、果敢にドリブルで抜いて出たことである。
 「パスでつなぐサッカーをしなければならない」という決まった考えにとらわれてはいない。「自分でいける」と思ったらドリブルで出る。「大きく攻めるときだ」と考えたら、長いパスを出す。それぞれが、自分自身の判断を遠慮なく生かしてチームプレーを組み立てている。そこが光っていた。
 若い選手がのびのびとプレーしただけでは、レベルの高い相手との対戦が続くリーグ戦では、そうそうは勝てない。だが、同じ相手と1度しか当たらない勝ち抜きのカップ戦では、組合せと運に恵まれれば、勝つこともあり得る。
 そのカップ戦で優勝すれば「おれたちのサッカーで勝てるんだ」という自信が身に付いて、リーグを勝ち抜く実力に育つ可能性がふくらむ。そういう意味で、若いヴェルディにとって、天皇杯優勝は「貴重なステップ」だった。


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