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サッカーマガジン 2005年1月18日号
ビバ!サッカー

多チャンネル時代のスポーツ

 プロ野球の巨人の人気が全国区になったのは「テレビのためだ」と、ぼくは考えている。
 戦後、プロ野球はテレビとともに急速に発展した。そのころ、テレビの電波はNHKと民放5局をキー局に地上波で発信され全国各地へネットされていた。簡略化して言えば、NHKの総合と教育を含めて、ふつうの家庭では7チャンネルしか見られない時代が長く続いた。
 その中で日本テレビ系列が巨人の試合を中継した。プロ野球を作ったのも、日本初の民放テレビを作ったのも、読売新聞のオーナーだった正力松太郎という偉大な怪物である。自分がはじめた巨人の試合を、自分が作った日本テレビの電波に乗せることは、正力オーナーの至上命令だった。そのために、プロ野球と巨人の人気が全国に広まったのである。
 「テレビで巨人の試合しか見られないのは、けしからん。日本テレビ系列が巨人戦を中継するのなら他のテレビ局は他の球団の試合をやるべきだった」という人もいる。しかし7つしかないチャンネルが、みなプロ野球をすることはないだろう。日本テレビがプロ野球を売り物にするなら、他の民放キー局は「こちらはドラマで勝負」ということになる。夜のゴールデンアワーに7つのチャンネルのどこを回しても「プロ野球ばかり」ということになれば、そっちのほうが「けしからん」だろう。
 プロ野球が巨人中心になったのは、そういうわけでテレビの「少チャンネル」が原因だった。
 しかし、この十数年の間に様子は変わってきた。というのはテレビのチャンネルは7つどころか、数百になろうとしているからである。チャンネルが増えたのは、衛星放送の発達とデジタル化が原因で、それにインターネット放送が加わりつつある。
 パ・リーグの近鉄撤退にはじまったプロ野球再編騒動は、1リーグ制論が消えて2リーグのままになり「もとのもくあみ」のように見えるが、実はそうではない。新しくオーナーになった「楽天」と「ソフトバンク」はインターネット関連企業で、多チャンネル時代を視野に入れて参入している。プロ野球は大きな曲がり角に立っている。
 多チャンネル時代に即応して「Jリーグもテレビ対策を考え直すときだ」とぼくは思う。現在は、全国放送でも、ローカル放送でも、NHK以外は負担が重くて、ほとんどやれない状況である。
 各地のテレビ中継権の扱いは各地のクラブに任せて、地域の実情にあった運営をしたほうがよいのではないか。テレビ放映でも地方分権を提案したい。


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