アジアカップの日本の第1戦。オマーンとの試合で中村俊輔のあげたゴールはすばらしかった。「ファンタスティックだ」と感嘆した。ファンタジスタという言葉は、ドリブルの名手に対して使うことが多いようだけれども、シュートにも夢のように美しいプレーがある。
きっかけは相手の守りからのこぼれ球だった。俊輔はすばやく反応して進出して拾った。相手に前をふさがれていて、シュートのコースはほとんどないように見えたのだけれども、うまくかわし、左足のアウトサイドに引っ掛けて、右隅のぎりぎりに決めた。前半34分である。
何がすばらしかったか。
第一は反応のはやさである。こぼれ球を予測するのは難しい。こぼれ出た瞬間にすばやくダッシュしてボールを奪う。このカンと動きは本能的である。
第二は判断のすばらしさである。相手に囲まれ、ほとんど角度のないところでアウトサイドキックを選択した。「ひらめきです」と本人が言ったそうだが、本当に一瞬の判断である。この能力はサッカーのインテリジェンスである。
第三はボール扱いのテクニックだ。ボールをすばやく扱い、正確に蹴る技能は超一流である。
「なにをいまさら。俊輔がすばらしいことは、前から分かっている」と言われるかもしれない。そのとおりだが、これだけの才能の持ち主が、2002年のワールドカップのときに、なぜ直前に代表からはずされたのか不思議である。
内部事情に詳しい人に聞いた話だが、2002年の「俊輔はずし」の真相は「チームの結束をはかる」ためだったという。ワールドカップでは2カ月近くチーム全員がいっしょに生活する。俊輔はフィールド外でも個性が強くて、長期間の共同生活で、同僚たちとうまくやっていけるかどうかと、当時のトルシエ監督が不安を感じたという話である。
今回のアジアカップは中田ヒデも小野伸二も参加しなかった。俊輔はチームの中心になって、攻撃の組み立て役でプレーすることができた。欧州で体験を積んで人間的にも成長した。そこに今回の活躍の原因があったのかもしれない。
オマーンとの試合内容は日本の大苦戦で、結局、俊輔のゴールだけ。1−0の辛勝だった。俊輔も攻撃の組み立て役としては、出発前のキリンカップのときのような、はなやかさはなかった。マークが厳しかったのかもしれない。重慶の暑さに参っていたのかもしれない。
でも、ブラウン管で見たかぎり、オマーンは、すばらしい選手を生かして、すばらしい試合をしていた。相手が強かったのが日本の苦戦の原因だったと思う。
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