「ユーロはおもしろかったですね。寝不足になっちゃった」
ぼくは加古川市にある兵庫大学に勤めている。この町でタクシーに乗ったら、運転手さんが、こう話し掛けてきた。
ポルトガルで行なわれた欧州選手権のテレビ中継が日本時間では明け方になる。それを見るために起きていたので、睡眠不足になったというのである。
そういう人間は、東京のサッカー好きの仲間にはたくさんいる。だけど地方都市で慟いているふつうの人が、寝不足になるほどユーロに関心を持っているなんてと、びっくりした。
10年くらい前までは、日本でサッカーの欧州選手権に興味を持っていた人は、ほんの一握りのマニアだけだったように思う。それが、いまでは極東の島国の至る所に寝不足を起こしているようだ。
「ユーロはいまや世界的だ」と思った。
サッカーが日本のすみずみまで普及したためでもある。ヒデや稲本や小野が欧州で活躍している影響もある。しかし、なんといっても、ユーロの試合がテレビで生中継されたのが大きいだろう。
ユーロが行なわれているさいちゅうに、関西大学にゲストで招かれて「スポーツとメディア」について話をした。サッカー通で有名な黒田勇教授が機会を作ってくださったのである。黒田先生も、その日の早朝に中継を見て、寝ぼけマナコだった。
ぼくの話は「ラジオはスポーツを全国的にし、テレビはスポーツを世界的にした」というテーマだった。1930年代に日本でラジオが東京六大学野球や甲子園の中等野球(いまの高校野球)を中継しはじめると、これらのスポーツは、たちまち全国で知られるようになった。第2次世界大戦後はテレビがスポーツを世界的にした。ラジオは音声だけだから普及は日本語圈だけだが、テレビは映像があるから国境を越えて理解される。さらに衛星放送ができたから、テレビはスポーツを世界的にしたという趣旨である。
この講義のあとで1人の外国人留学生が「ぼくはユーロをインターネットで見ましたよ」と話し掛けてきた。
彼の母国で行なわれたテレビ中継をインターネットで流した者がいて、それを容量の大きい回線で受けたらしい。インターネットには国境がないから、世界中のどこででも受けられる。アナウンスはその国の言葉だろうから他の国の人には理解できないだろうが、映像は分かるはずである。
「それって放映権の侵害じゃない?」と思ったが、詳しいことは知らない。インターネットも、スポーツを世界的にしているのだろうか?
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