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サッカーマガジン 2004年4月20日号
ビバ!サッカー

テレビは大量点を欲しい?

 「きょうの試合もまずは勝ち点3、それに加えて大量の得点が欲しいところです」
 ワールドカップ予選、シンガポール対日本のキックオフの直前にテレビ中継のアナウンサーが、こんなことを言っていた。「またか」と思ったね。
 日本はアジアのなかでは圧倒的に強くて、大量点をあげられるのが当たり前という印象を与える言い方である。
 アナウンサーの発言が間違っているわけではない。「まずは勝ち点3」と勝つことが大切だといっている。「大量点」も、ないよりはあったほうがいい。
 でも言わなくても当たり前のことだ。
 「まだまだ点が入りますよ」と言って視聴者を引き付けて、視聴率を上げようという魂胆なんだろうか?
 でも、大量点は、難しい。
 ぼくの考えは、うまくいけば2−0で日本の勝ち、悪くても2−1で勝ってほしいというものだった。他の多くの専門家も似たような考えだったと思う。
 試合が始まってみると、日本が一方的に優勢だった。パスは組織的だし、シュートのチャンスも多い。しかし日本のシュートは、シンガポールの若いゴールキーパーとディフェンダーの捨て身の守りに阻まれた。
 時として、シンガポールの逆襲が日本の守備ラインの裏側に出た。シンガポールの選手が1人でドリブルで持ち込んでシュートする。それが日本のゴールを脅かした。
 チームとしては力の劣るシンガポールが、日本の猛攻を防ぎ、逆襲から日本のゴールを脅かす。そういう現象が起きるのはなぜだろうか。
 思うに、シンガポールの選手は、子どものときから、自分の力で防ぎ、自分の力でドリブルシュートをするサッカーをしてきているからである。
 そのサッカーは、あまり組織的ではない。しかし、そういうサッカーをしながら自分の得意技を伸ばした若者が、代表選手にはい上がってきている。だから、自分の得意技が発揮できる場面になれば日本の選手より強いのである。
 このところ、オリンピック予選とワールドカップ予選で、日本がアジアのチームと対戦するたびに、ぼくは毎回、同じようなことを書いている。「日本は必ずしも格上ではない」「大量点をとるのは難しい」「組織力だけでは、強いチームとはいえない」「個人の力量が必要だ」
 日本はシンガポールに2−1の辛勝だった。結果は、ぼくの考えの正しさを示していると思うのだが、でも、やはり少数派のようだ。テレビのアナウンサーのコメントの影響力にはかなわない。


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