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サッカーマガジン 2004年3月23日号
ビバ!サッカー

山本監督の戦略への疑問

 「勝ち点1をとって前進したととらえたい」。アブダビで行なわれたオリンピックのアジア地区最終予選、3月1日の第1戦でバーレーンと引き分けたあと日本の山本昌邦監督が、こう言っていた。
 テレビ中継でそれを聞いて「負け惜しみ、いや引き分け惜しみかな」と、ちらっと思った。もちろん、負け惜しみではない。「すんだ試合の結果にこだわらないで、次をめざそう」と前向きに気持ちを切り替えた言葉である。でも、くやしさはにじんでいた。
 アウェーの試合だから勝ち点1、つまり引き分けでもいいと考えることもできる。しかも初戦だから慎重に戦うのは一つの定石である。
 しかし山本監督は勝ちをねらって、この試合に臨んだに違いない。そうでないと最後の10分間の総攻撃の意味がわからない。高松を出し、闘莉王をあげ、長身の選手を前線に並べて、ゴール前ヘボールを放りこんだ。力ずくでも1点をもぎ取ろうとする試みだった。
 これは1点リードされていて「負ければおしまい」というときに、よく使われる手である。総攻撃に出れば裏側をつかれて逆襲を食らうおそれはあるが、その危険をおかしても勝負に出なければならないときの方策である。実際にバーレーンに逆襲されて、ゴールキーパーの林が右往左往する場面があった。引き分けでいいという考えなら、こんな危険はおかさないだろう。
 このグループでは地元のUAE(アラブ首長国連邦)がライバルだ。第3戦のUAEとの試合は、アウェーだから引き分けでもいいという考えはある。しかしバーレーンからは勝ち点3をあげておきたかった。それが本音だろう。
 3月3日の第2戦ではレバノンに4−0で勝った。レバノンは、このグループではやや力が劣っているようだった。初戦でトラブルを起こして主力選手が出場停止にもなっていた。それに日本にとっては、やりやすいタイプだった。
 この試合では、第1戦で控えだった選手をできるだけ使う手もあった。中1日の3連戦である。最後のUAEとの試合が勝負であれば、ここでは主力を休ませて決戦に備える戦略があってもいい。
 しかし、山本監督は、そうはしなかった。第1戦とほぼ同じメンバーを先発させた。「弱敵といえども、あなどらず」というところだろうか? 控えでは勝てないという判断だったのだろうか?
 チームの内情には、外からでは分からないことが多い。まして、ブラウン管越しでは分からない。だから軽々しく批判はできないが、山本監督が、どういう戦略を考えていたのか、知りたいと思う。


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