アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 2003年10月14日号
ビバ!サッカー

新潟のサッカー白鳥革命

 アルビレックス新潟が、注目を集めている。J2で首位を走り、J1昇格の望みが濃い。急速にサポーターを増やして新潟スタジアムのビッグスワンが毎試合3万人以上の観衆で埋まっている。アウェーの試合にも、10数台の応援ツアーのバスが出る。もともと新潟はサッカーがあまり盛んでない土地だった。ぼくは10年あまり前に、新潟出身という立ち場から、このクラブの創設に協力したので、こういう話を聞くと夢のようである。
 チームが強くなって観客動員に成功しているというだけの話ではない。新潟そのものが変わっている。日本代表対セネガルの試合(9月10日)を見に行ったときに、それを実感した。
 新潟駅北口から競技場行きのシャトルバスが出る。3年前のコンフェデレーションズカップのときは、バスに乗る人びとの行列の整理も、バスの運行も混乱して駅前に群衆があふれたが、1年後のワールドカップでは、その経験を活かしてみごとに乗客をさばいて評価された。
 ワールドカップのときは自治体(県)が主力になり、警察も全面的に介入し、バス会社も協力した。しかし、3年目の今回は「国家的行事」ではない。一つのスポーツの親善試合にすぎない。官民一体で協力するという筋の行事ではない。
 ところが、バスの発着の整理は、ワールドカップのとき以上に見事だった。スタッフという腕章を巻いた人たちが要所要所で、にこやかに、しかし、しっかりした態度で乗客を誘導していた。おそらく大多数はボランティアだろう。駅前だけではない。競技場の周辺でもそうだった。競技場外のスタッフとして協力している人たちは、試合を見ることはできない。したがって、必ずしもサッカーのファンではないだろう。一人の市民として社会的行事に協力しているのだろう。これを見て「新潟は変わった」ことを実感した。
 新潟の人たちは、温厚篤実で個人的には親切である。しかし、それが表面に出ない。社会性には乏しい。この町で育った人間の一人として、そう思い込んでいた。しかし現在は、新潟人のよさが、積極的に社会的にも発揮されている。
 新潟を変えたのは、ワールドカップ運営の経験であり、アルビレックス新潟という地元のチームヘの応援であり、また美しいスタジアムを得たことである。この三つの相乗効果だろうと考えた。
 スタジアムは鳥屋野潟(とやのがた)という湖のほとりにある。白鳥が飛来するので、白鳥をイメージするデザインの競技場を作ってビッグスワンと命名した。
 新潟の人びとの変わりようを、サッカーによる「白鳥革命」と名付けたい。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ