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サッカーマガジン 2003年9月30日号
ビバ!サッカー

地域とクラブのスポーツ文化
市原のスタンド風景を考える

 Jリーグ10年。日本各地で「それぞれのスポーツ文化」が育ちつつある。それを楽しく伸ばしてほしい。「あれはダメ」「これはダメ」などといわずに、地域の独自性、クラブの独自性を認めてほしい。千葉県市原のジェフユナイテッドの試合を見に行って、そう考えた。

ジェフ弁当に感心
 サッカーを半世紀近くにわたって記者席から見てきたが、それでは今のサッカーは分からない、地元のサポーターといっしょに楽しむべきだというアドバイスにしたがって、Jリーグの試合をスタンドで見る試みを続けている。
 その一つとしてジェフユナイテッド市原の試合を見に行った。その話の続きである。
 JR内房線の五井駅からジェフユナイテッドの無料シャトルバスに乗って臨海公園の競技場に着いた。そこまでは、あまり応援の熱気は感じられなかった。
 公園の中では、お店を作ったり、勝手に営業行為をすることは、法律によって禁止されていると聞いている。そのために、スタジアムに近づくにつれて、かえってシーンと静かになるのが日本の多くの競技場の例である。市原の臨海公園も、そんな感じだった。
 しかし、スタジアムのなかに入ると雰囲気は、がらりと変わった。スタジアムのなかの売店は、なかなか活気がある。
 「何か腹ごしらえを」と思ってのぞいたら、ご飯の上に三色のいろどりをした弁当を売っていた。黄色が錦糸たまご、緑は青菜の漬物のきざみ、えんじがおかかのようだった。これは地元チームのジェフユナイテッド市原のユニホームの色である。ちょっとしたアイデアだ。ここでしか買えない弁当が、ここにある。
 「これが文化だ」と思った。「ジェフ市原弁当」とでも書いてあればいいのだが、それはなかった。ひっそりと売っていた。

マッチデープログラム
 入場料3000円を払った座席は、メーンスタンド左よりの、ホーム側自由席である。古いタイプの地方の陸上競技場でバックスタンドには、ちゃんとした座席はない。ゴール裏は低くて試合が見にくい。スタンド観戦は、メーンスタンドの自由席がいいと、あらかじめアドバイスを受けていた。
 スタンドに座る前に「マッチデープログラム」を買おうと思って探したのだが売っていない。
 マッチデープログラムは、試合の日ごとに地元で発行するパンフレットあるいはリーフレットである。たいてい、200円か300円で会場で売っている。「市原にはないのかな」と、いぶかしく思った。
 ところが、キックオフの30分くらい前に、まわりに座っていた人たちが、急に立ち上がってスタンドの上がり口に向かった。何かと思ったらマッチデープログラムを無料で配布しはじめたのだった。
 タブロイド版(新聞紙の半分)の1枚もので裏表ともカラー印刷である。裏面には、その日の両チームのスターティング・メンバーが図解で印刷してある。「これを入れるために、キックオフの30分前までは、配れなかったんだ」と理解した。
 これは市原独特のやり方なんだろう。地元のファンは、それを知っているわけである。このように、その地域独自のやり方が、いろいろな面で、それぞれの地域で育っているのではないか。それは、その地域のスポーツ文化の一つの表れではないか。

楽しい文化を育てよう
 「文化」という言葉は、いろいろな意味で使われているから、安易に「スポーツ文化」というと誤解されるかもしれない。
 ここで「文化」というのは「一つのグループのなかで生み出され、グループのなかで受け継がれていく行動様式」というほどの意味である。だから「いい文化」「悪い文化」というような価値判断は考えていない。市原の応援の仕方や、弁当の作り方や、マッチデープログラムの作り方を「いい」とか「悪い」とか評価するつもりはない。
 しかし、それぞれの地域に、それぞれのサッカークラブがあり、それぞれのスポーツ文化が育っているのは楽しいことだと考えた。画一的に一つのやり方を押しつけるようでは地域のスポーツは育たない。Jリーグ百年構想は、そういうことに配慮しながら展開してほしい。
 ところで、こういう各地のクラブを体験的に調べ始めようと思った動機の一つは、ぼくが東京の読売・日本テレビ文化センター北千住で主宰している「ビバ!サッカー講座」の仲間が、いま「サッカーのある暮らし」というテーマの本を作っているからである。サッカー文化が育ちつつある町を訪ねて、伸間たちがルポを書いている。
 この講座の10月からの新しい仲間を募集中である。毎回1冊ずつ本を出そうと計画している。その仲間を増やしたい。問い合わせは「読売・日本テレビ文化センター北千住」へ。 


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