Jリーグの試合を記者席でなくスタンドで観.戦してクラブのサポーターについて考えてみることにした。そこで一つ感じたのは、クラブにとってサポーターは身内ではなく外部から来る「お客さん」の扱いということである。そこに外国のクラブとの違いがあるのかもしれない。
市原の臨海競技場へ
今回は前週の続きである。
記者席で試合を眺めているだけでは、サッカーは分からない。地元のサポーターといっしょにスタンドで楽しまなければ本物でない。友人にこう言われて、スタンドで試合を見ることにした。
というわけで、前週は東京の味の素スタジアムのバックスタンドで、FC東京の試合を見た話を書いた。
実は味スタは、三鷹市にあるぼくの東京の家からは歩いて20分ほどのところにある。ベランダから、スタジアムが間近に見える距離である。そんな地元で試合を見るだけでは、世の中全体のことは分からないだろう。そこで次の週は、ちょっと遠出を試みることにした。
出掛けた先は千葉県市原市の臨海競技場、ジェフユナイテッドのホームである。
三鷹市は東京の西側にある。市原市は東京の東側の千葉県の中央の千葉市の一つ先である。一都一県横断という感じで、日帰りで行くにはあまり便利ではない。
JRを2回乗り換えて、内房線の五井駅に着いた。ここから、試合の日には無料のシャトルバスがスタジアムまで出ている。「臨海魂」と書いたTシャツを着た女性が、いっしょに降りたので、そのあとをついていったら、バス乗り場はすぐ分かった。
試合の日の無料バスは、欧州では見かけるが、経費はクラブが負担するのだから大変だろうな、とジェフユナイテッドの「ふところ勘定」まで心配した。
応援よろしくお願い…
スタジアムヘ行くバスのなかで気になったことがある。
車内でのアナウンスで、試合について、いろいろ説明したあと「応援よろしく、お願いします」という結びのことばがあった。
この「応援よろしく、お願いします」という表現がピンとこない。これはプロ野球の試合でヒーロー・インタビューの最後に、選手がよく口にすることばである。選手が「これからも、ぼくを応援してください」というわけで、それはそれでいい。
しかし、無料シャトルバスの乗客は、ほとんどがジェフユナイテッドのサポーターのはずである。自分のチームのサポーターに対して「応援よろしく、お願いします」とはなにごとか。お願いしなくても応援するのが当然の人たちではないか。
バスのなかでは「六甲おろし」ではない「臨海おろし」の応援歌でも景気よく流して「みんなで力一杯応援しよう」と呼びかけるべきところである。
「応援よろしく、お願いします」というアナウンスに違和感を覚えたのは「チームはクラブのもの、応援するのは外側の人たち」というニュアンスを感じたからである。
クラブとサポーターを区別しようとする感覚を「応援よろしく」という表現から感じとったのは思い過しだろうか?
乗客は、おとなしかった。「臨海魂」のTシャツやジェフのレプリカ・ユニホームを着ている人はまばらで、応援歌をうたって気勢をあげることもなく、黙々と座っていた。
メンバーとの違い
Jリーグのクラブには「サポーターは、外からくるお客さん」という感覚があるのではないか、と想像した。
Jリーグでは、クラブは原則として株式会社である。だからクラブはサポーターのものではなく株主のものである。多くのクラブでは、株主はJリーグ発足前にチームの母体だった企業である。つまりJリーグは「地域に根ざす」といいながらも、まだ企業離れをしていない。それがサポーターに対する扱いにもあらわれているのではないか、と考えた。
南米の国やスペインなどラテン系の国では、チームを応援しているのは、クラブのメンバーである。メンバーはクラブの構成員だから、チームを外側から応援しているのではなく「オーナー」として自分のクラブをサポートしているわけである。応援を「お願い」される立ち場ではなく、自ら応援する立ち場である。
もちろん、大部分は零細な一口会員で大きな発言力をもっているわけではない。実際にクラブを握っているのは一部の大金持ちである。しかしメンバーは役員の選出にあたって1票をもっていたりするので、建て前としては運営に参加しているという気持ちを持つことができる。
日本のサポーターは、クラブのメンバーではなく、せいぜいで「後援会員」である。そこに雰囲気の違いがあるのではないか。
行きのバスのなかでは、こんなふうに思ったのだが、スタジアムに着いてからの印象はまた違った。その話は次回に。 |