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サッカーマガジン 2003年9月16日号
ビバ!サッカー

成熟途上のサポーター文化
スタンド観戦で気付いたこと

 Jリーグ10年。日本のサッカーは大きく変わった。競技のレベルやリーグの運営などの進歩はすばらしい。それだけではない。観客席の雰囲気も見違えるようである。各チームごとに独自のサポーター文化が育ちつつあるように見える。スタンドで試合を観て、それを実感した。

記者席では分からない
 友人が、東京の味の素スタジアムの入場券をくれて「たまには、一般のお客さんといっしょに、スタンドで見たらどうか」という。
 新聞社で30年以上もスポーツ記者をしていた。10年前に大学で教えるようになってからもジャーナリストとして取材を続けてきた。その間ずっと記者席でサッカーを見てきた。しかし、1人の観客として、ふつうのスタンドで試合を見たことは数えるほどしかない。
 「それじゃあ、ほんとの試合の雰囲気は分からない。みんなといっしょにサッカーを楽しんでみろよ」というのが、切符を調達してくれた友人の気持ちだろう。
 というわけで、Jリーグ・セカンドステージの開幕試合を「味スタ」の自由席で見た。FC東京対セレッソ大阪である。
 あいにく雨だったが、スタンド全部が屋根に覆われているので、スタンドの上のほうに座っていると、まったく濡れないですむ。これも、日本のサッカーの大進歩である。
 メーンスタンド側は指定席、その他が自由席だが、自由席には4種類あることを実感した。バックスタンド側とゴール裏の2種類、それがホーム側サポーター用とアウェー側サポーター用とあるから計4種類である。そして、それぞれ雰囲気が違うようである。
 ぼくはバックスタンドのホーム側自由席で見た。
 「ゴール裏だと、周りが熱心に応援しているから、試合をしっかり見ることができないかもしれない」というのが友人の弁である。

GKコールにびっくり
 バックスタンドのお客さんは、ゴール裏の人びとに比べると落ち着いていて、じっくり試合を見ているようすだったが、要所要所では、ゴール裏に負けずに応援する。ゴールが生まれると総立ちになる。Jリーグ以前にはなかった雰囲気である。
 いつもスタンドで見ている人たちにとっては当たり前のことなんだろうが、記者席にいては、そんなことにも、なかなか気が付かない。そういう発見をいろいろした。
 そのなかで、ちょっとびっくりだったのは「GKコール」である。
 相手チームが、ホーム側の陣内でフリーキックを得た。そうするとスタンドからゴールキーパーの名前の連呼が起こった。「ピンチだ、防いでくれ」と励ますコールである。
 「ゴールキーパー頼りとは情けない。みんなで、しっかり、はね返せ」と、ぼくは心の中で思ったが、ゴールキーパーが自分の名前の連呼を聞いて、集中力を高めることができるのなら、これも効果的なんだろう。こういう応援は、記者席にいても聞こえているはずだが、これまでは、ついぞ気が付かなかった。
 GKコールはFC東京独特かと思ったら、その4日後に国立競技場で行なわれた日本代表対ナイジェリアの試合でも「曽ヶ端、曽ヶ端」のGKコールを聞くことができた。このときは記者席にいたのだが、味スタで聞いていたから、すぐ分かった。
 こういう応援を思いついて、リーダーシップを取って広める人がいるのだろう。あるいは同じ人がリーダーになっているのかもしれない。

外国のマネであっても
 応援しているチームのレプリカ・ユニホームを着て応援する。クラブカラーのマフラーを首に巻き、選手入場のときなどに高く頭上に掲げて迎える。こういう光景は、Jリーグの試合では、いまでは、どこででも見られるようである。でも、Jリーグ以前には、日本には、ほとんどなかった習慣である。
 スタンド革命が起きた主要な原因は二つではないか、と考えた。
 一つは、Jリーグが「地域のチーム」を掲げてスタートしたことである。現実には、母体だった企業チームの影響を引きずっているクラブも少なくないが、観客は自分たちの住む地域のチームとして、受け入れている。そういう意味では、地域の人びとのほうが、クラブを運営している側よりも進んでいる。
 もう一つは、グローバル化の影響だろう。海外のサッカーをテレビを通じて見る機会が多くなったこともある。海外旅行がふつうのことになって、熱心な人びとが欧州のサッカーを実際に見てきたこともある。応援の仕方を勉強するだけのために、わざわざ海外に出かけた人もいるということである。
 「だから、まだクラブとの一体感は乏しいし、外国のいろんな応援方法を、まぜこぜに取り入れている感じもあるけど」と友人が指摘した。
 そうかもしれない。日本のサポーター文化は成熟途上だろう。でも各地域独自の文化も育ちつつあるのではないか。
 もう少し、各地のチームのスタンド観戦を続けて勉強してみようと考えた。


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