Jリーグのシーズンの隙間を利用して、夏休み前半にいろいろエキシビション試合があった。なかでもレアル・マドリードを迎えての試合は、1年前のワールドカップのスターをずらりと並べたチームとあって盛り上がった。レアルは今回のアジア遠征で何を狙ったのだろうか?
国際興行の狙い
スペインの名門レアル・マドリードが来日して8月5日夜、東京の国立競技場でFC東京と親善試合をした。戻りツユのような雨が降りしきるなか、5万4千人あまりの観衆がスタンドを埋め尽くして、おおいに盛り上がった。試合内容もエキシビションの良さを満喫できて、なかなかよかった。
レアル・マドリードの今回のアジア・ツアーには、二つの狙いがあったように思う。
第一は、クラブチームとしての新しい興行の試みである。世界のスターを集めて一つのクラブチームを作る。もちろん、スペイン・リーグで試合をするためではあるが、それだけでは採算がとれない。そこで遠くアジアに遠征し、新しいマーケットを開拓しようとしたものである。
試合ごとのギャラだけが目当てではない。いまでは収入源として、テレビの放映権がある。クラブの名前やマークをつけたグッズなどのライセンスの権利がある。アジアで試合をした映像を欧州で放映することもできる。名前を売りこめば、その後も長く商品を売ることができるスター軍団だからこそ、その波及効果と複合効果は大きい。そこを見込んだのだろう。
欧州のチームがアジアに遠征してきたことは、長年にわたって、何度もある。しかし、今回のレアル・マドリードはそれとはちょっと違う。世界選抜のエキシビションに、クラブチームのツアーを掛け合わせたようなものである。過去のツアーとは違う、新しい興行形態ではないかと思った。
チーム作りの狙い
もう一つの狙いは、スペイン・リーグ開幕に備えてのチームづくりである。これには二つの面があるのではないか。
一つは「人間的なチームづくり」である。いろいろな国から個性の強いスターが集まっている。お国ぶりや考え方が対立することもある。だから、お互いの違いを理解するために「和」が必要である。スターといっても年齢的にはまだ若い。人生経験は少ない。日常の生活のなかでお互いの人柄を理解する場を与えてやったほうがいい。
というわけで、環境の非常に違うアジアの国に、いっしょに旅行して寝食をともにする機会を作ったのは「人間的なチームづくり」に役立ったのではないか。
もう一つの面は「技術的なチームづくり」である。
今回のレアル・マドリードではベッカムが話題の中心だった。ベッカムは、マンチェスター・ユナイテッドから移籍したばかりで、興行的に大きな付加価値だったが、技術的には、レアル・マドリードで、どのように使われるかが注目のまとだった。
今回のツアーは、ベッカムが、どのポジションでプレーするのか、他のスターたちと、どのようなコンビを組めるのかを見る機会だった。
東京での試合では、ベッカムは前半は中盤の右サイドでプレーし、後半は中盤の中央でプレーした。いろいろ、ためしているのだろう。これは「技術的なチームづくり」の一環である。
ケイロス監督の方法
レアル・マドリードのカルロス・ケイロス監督も、ベッカムとともにマンチェスター・ユナイテッドから移ってきたばかりである。したがって「名門の伝統+スター軍団+ベッカム」のチームを、どのように組み立てるかを、このアジア・ツアーで考えただろう。
東京での試合のあとの記者会見でケイロス監督は、こう話した。
「この試合で、選手たちが頭に描いている戦術を、いかに実行するかが見えてきた。チームとしてどのように組織できるかがわかってきた」
こういう趣旨の話だった。
FC東京が一生懸命に勝負に(コンペティティブに)出てくれたおかげで、そういう試合ができた、という文脈のなかで出てきたことばである。
いわば社交辞令のなかでのことばである。また通訳を通じての話である。しかし「ほんね」だろうと、ぼくは受け取った。
スターたちは、それぞれが自分にできる、あるいは自分のしたい戦術を頭のなかに持っている。仲間とのコンビによるグループ戦術である。それが分かってきたら、それを生かせるようにチームの組織を作っていく。その方向が、このツアーで見えてきたということである。
監督が選手に、自分の考えている戦術を強制するのではない。選手の考えていることを理解し認めたうえで、それを組み合わせてチームを組織する。これは「おとな」のチームづくりだ…とぼくは思った。
この新監督も「ただもの」ではない。
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