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サッカーマガジン 2003年6月17日号
ビバ!サッカー

スポーツ団体の会長を考える
ボランティアと有給との違い

 有給のスポーツ団体の会長が日本でも生まれてきた。サッカーに続いで日本オリンピック委員会でも会長と専務理事を有給にすることになった。これまでは、ボランティアの大物が会長などになったものだが、有能なプロフェッショナルに運営を任せるのも一つの方法である。

平井元会長の訃報
 日本サッカー協会第5代会長だった平井富三郎さんが5月20日に亡くなられた。96歳だった。ぼくは日本サッカー協会からの広報で5月23日に知ったのだが、それまでは伏せられていたらしい。新聞には、その翌日に小さく載っていた。ご高齢であったし、おそらく、大げさにしたくないという、ご遺族の意志だったのだろう。 
 1976年から10年間日本サッカー協会の会長だった。歴代の協会会長のなかでも社会的な「大物」だった方である。もともとは通産省のご出身だが、鉄鋼産業はなやかなりしころの新日鉄の社長を務めた財界人だった。
 個人的に親しくさせていただいたわけではないが、会長在任のころに、ぼくは東京の新聞社でサッカー担当記者だったから、協会と報道陣との懇談会などの席で、何度かお目にかかったことがある。経済や政治の裏話をおもしろくうかがったことを覚えている。
 サッカーに特別な縁があった方ではなくて、サッカーやスポーツの話をするのは、もっぱらぼくたちのほうだった。 
 お酒の勢いで、スポーツ取材の裏話をしたら「おもしろいから、こんなところで話していないで、本に書きなさい」といわれたことがある。お勧めにもかかわらず怠けていて、あちこちに雑文を書き散らすことがあっでも、まっとうな本にまとめることをしなかったのは恥ずかしい。 
 お元気なころに、日本のサッカー界での体験談を、いろいろうかがっておくべきだったと思う。

歴代の協会会長
 1921年(大正10年)に大日本蹴球協会が設立されたときの会長は今村次吉さんで、当時の日魯漁業社長だった。ぼくが直接知っているわけではない。日本のサッカーの長老だった新田純興さんが書かれたものを読んで得た知識である。
 初代の今村会長も財界人だったわけだが、第1回理事会は、今村会長の私宅で開かれている。
 2代目の会長は深尾隆太郎さんでこのお二人が、第2次世界大戦前の会長である。
 戦後、日本蹴球協会となってからの最初の会長(3代目)は、高橋龍太郎さんで、ビール会社の社長だった。この当時は、財界人などスポーツ以外の社会的地位や名声のある方を競技団体の会長にお願いするのがふつうだった。高橋会長は、息子さんがサッカー選手で、サッカーを深く愛していたが、戦争に駆り出されて戦死された。亡くなったご子息のために会長を引き受けてくださったのだと聞いたことがある。
 高橋会長は、プロ野球の球団のオーナーにならなければならなくなったので日本蹴球協会の会長をお辞めになった。このころからは、ぼくも直接知っている。
 そのあとの4代目は野津謙さんである。東京帝大(東大)のサッカー部創設のころからの選手で、会長就任当時はお医者さんだった。初めて選手出身者が会長になったので、当時の協会の実力者だった小野卓爾常務理事が「キャプテン会長だ」といって、ぼくたちサッカー記者に売り込んだものである。

キャプテン会長
 野津会長のあとが、平井さんでいわば「キャプテン会長」から再び財界人の「大物会長」に戻ったわけである。平井会長のあとは、ずっとサッカー選手経験者の「キャプテン会長」が続いている。
 お金持ちで社会的地位の非常に高い人がスポーツ団体の長になるのは欧米ではよくある。米国や欧州、中南米のラテン系の国には日本とはケタ違いの富豪がいるので、パトロンになって自分のポケットマネーで、スポーツの面倒をみることができる場合もあるようだ。
 日本では、財界人でも私財を投じるほどの余裕はなかなかないが、それでも、地位を利用して、なにかと面倒はみてくださったものである。
 しかし、世のなかが変わって、現在ではそうはいかない。キャプテン会長は、ボランティアとして、時間と労力を提供しても、お金までは出せない。
 現在の日本サッカー協会会長の川淵三郎さんは「キャプテン」と称しているが、サッカー協会史上で、はじめての有給会長だそうである。日本オリンピック委員会も、これにならったのか会長と専務理事に給料を支払うことになった。
 有給会長は米国では例が多い。有能な人材を、相当な報酬で雇うわけである。この場合、会長は「だれに雇われているのか」をしっかり自覚していなければならない。
 米国では業績のあがらない会長は解任される。有給の会長は、仲間うちで選んだキャプテンではなく、オーナーたちに雇われたプロフェッショナルである。


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