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サッカーマガジン 2003年4月15日号
ビバ!サッカー

「赤い悪魔」の真実を調べる
岡山のスポーツ社会学会から

 日本スポーツ社会学会の総会が3月下旬に岡山大学であり、そこでサッカーについての催しや研究発表があった。2002年のワールドカップを大学の先生方や大学院の研究者の卵が研究したのをまとめて発表しはじめたわけである。その一つを紹介しよう。

学会のW杯研究
 この3年ほどの間、スポーツやマスコミに関係のある学会で、サッカーをテーマにしたシンポジウムや講演が多かった。これは多くのプロの研究者が、2002年のワールドカップに興味をもって、研究対象として考えたからだろう。 
 日本スポーツ社会学会は、その一つである。その総会が3月22日と23日に岡山大学で開かれ、2日間にそれぞれ、ワールドカップに関するシンポジウムと公開講演があった。若い研究者の発表にもサッカーをテーマにしたものがあった。2002年ワールドカップの研究が発表の時期に入ったのである。 
 1日目の午後には「日韓ワールドカップとメディア」というシンポジウム形式の催しがあった。これは関西大学の黒田勇教授を中心とする日韓メディア・スポーツ研究会の発表である。  
 ぼくも、この研究会のメンバーに加えてもらっているのだが、残念ながら、このシンポジウムは聞くことができなかった。 
 東京・北千住でやっている「ビバ!サッカー講座」とぶつかったからである。そのために、午前中は学会の研究発表を聞き、午後から新幹線で東京に駆けつけなければならなかった。 
 だから、あとから内容を聞いただけなのだが、このテーマセッションは、なかなか中身が濃かったらしい。 
 韓国人の研究者、韓国の東亜日報の東京支局長、韓国に留学中の日本の大学院生をパネリストにして、焦点を韓国に絞っていたのが成功したようだ。

SKテレコムの戦略 
 とくに話題になったのは、パネリストの森津千尋さんの発表だった。森津さんは若い女性の大学院生で韓国留学中である。森津さんの発表は、韓国のサポーター・グループ「赤い悪魔」についての調査だった。 
 ワールドカップのとき、韓国のサポーター・グループ「レッド・デビル」の組織した群衆が「ビー・ザ・レッズ」を染め抜いた赤いシャツを着て数十万人の街頭応援を繰り広げた。ソウルの中心部の市庁前広場から光化門へかけての大通りが、数十万の赤い群衆で埋まった光景を、テレビで見た人も多いだろう。この応援は、各地の会場都市にも広まって全国で数百万の人びとが、赤いシャツの街頭応援に加わったという。 
 この赤い悪魔の街頭応援は、実は通信会社のSKテレコムとその広告代理店が計画的に仕組んだものだった。そういうことを、森津さんは担当者にインタビューして調査した。
 SKテレコムは、韓国の移動体通信業界では1位の会社だが、ワールドカップの公式スポンサーの権利は業界2位の会社に奪われた。そこでそれに対抗するために、ワールドカップの公式名称やマークを使わない広告戦略を考えた。それが「赤い悪魔」の街頭応援だった。 
 大会前年の10月からレッドデビルの会員獲得に協力し、応援方法普及のキャンペーンをやり、大会直前の国際試合のさいには「全国民応援フェスティバル」として、光化門にサポーターを動員した。それがテレビ中継されて広まり、本番で大当たりしたわけである。

大衆に根付くか
 発表を直接聞いたわけではないから、多少はニュアンスの違うところがあるかもしれないが、森津さんからもらったメモをもとに、おおざっぱに紹介したしだいである。正確で詳しい内容は、いずれ森津さんが論文の形で発表すると思う。
 日韓メディア・スポーツ研究会では、ワールドカップが終わって間もない9月に関西大学でシンポジウムを開いたときにも、この問題を取り上げた。
 このときはレッドデビルの広報担当責任者のシン・ドンミン(申東民)さんを韓国から招いて話を聞いた。ぼくが司会をした。
 そのときのシン・ドンミンさんの話は、レッドデビルの中核となったサポーターのグループの立ち場からのものだった。SKテレコムの協力を得た話もあったが、インターネットの威力を活用した話のほうが印象に残っている。
 シン・ドンミンさんたちのグループが最初に中核になったことは確かだろう。しかし、それをあれほど大規模なブームにしたのは、広告メディアの戦略だった。テレビとインターネットが、その手段として大きな役割を果たした。そういうように思われる。
 今後、さらに突っ込んで考えると、いろいろなおもしろいテーマが出てきそうである。あの大衆の楽しいお祭騒ぎが韓国の大衆文化として根付くのかどうか、広告業者が仕組んだ一時的な現象に終わってしまうのかどうか、などである。
 これをテーマに、さらにまとまった研究成果を聞きたいものだと思う。


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