中学校のスポーツが抱えている問題の一つは指導者不足である。教員が「顧問」という名でスポーツの現場を指導することには無理があるのではないか。この機会に教員でない専門家を登用することを考えたらいいのではないか? というわけで一つのアイデアを提供したい。
顧問になり手がない
「教師には転勤があります。熱心に指導していた顧問の先生が転勤すると、後任がなかなか出てこないんですよ」
東京の北千住でやっているビバ!サッカー講座の仲間に中学校の先生がいる。今回は、その方から聞いた話である。
中学校の部活では先生の一人が顧問になる。そして、その顧問の先生が実技を指導しなければならない場合が多い。
顧問がいなくなった体操部の生徒たちが先生を訪ね歩いて「顧問になってください」と嘆願した。しかし引き受け手がなくて廃部になった例もあるという。
競技体操を指導するのは難しい。まして対象は初心者の中学生。危険もともなう。事故が起きれば教師は責任を問われる。引き受け手が出てこないのも無理もない。
サッカーのようなスポーツでは体操ほどのことはないだろうが、それでも全部の中学校にサッカーの経験のある先生がいるわけではない。
サッカーファンの女性の理科の先生が、サッカー部の顧問を引き受けさせられた。勉強して4級審判の資格をとり、子どもたちの、ありあまるエネルギーをうまくまとめて、東京都の大会に出場できるまでに育てた。
そういう例もあるのだが、それでも、その先生が転勤すれば、おしまいである。
「中学校のスポーツの危機は、少子化だけが原因ではありません。指導者が少ないのも大きな問題です」という話だった。
業余学校方式を
「学校教育のなかで部活動をする意義はおおいにあるんです」と中学校の先生はいう。自主的に行動することを学び、友だちと協調することを学ぶ。中学生のころに誰もが、そういう経験をすることは、非常にいい。しかし、現実には中学校の部活は崩壊に向かっている。一つには子どもの数が減って、部員の数が足りなくなってきたため、もう一つには指導する先生がいなくなってきたためである。
「三つくらいの中学校が連合して一つの部を持とうという案があります。サッカーの指導者がいる中学では、隣接した他の中学校の生徒も部活に受け入れる。ある中学では、バレーボール部をやる。もう一つの中学では陸上競技をやる、というふうにするんです。文部科学省がこの方式をすすめています」
この話を聞いて、ぼくは驚いた。というのは、ぼくが20年くらい前に、このアイディアをサッカーマガジンの誌上で紹介した覚えがあるからである。それが、いまごろ「政府公認」になったのだろうか? ぼくは、中国に行ったときに「業余学校」という組織を見て、この方式はいいな、と考えたのだった。
業余とは中国語で「アマチュア」という意味らしい。また業余学校は当時、スポーツの英才教育の場として日本に紹介されていた。
学校の授業が終わると、体操の得意な子どもたちは、午後には体操の業余学校にでかける。そこには体操の練習をする設備があり、体操の専門の指導者がいる。
政府公認のアイディア
中国で見学した体操競技の業余学校は英才教育の施設で、各地から集められた素質のある子どもたちが寄宿舎で生活していて、午前中は勉強、午後は体操をする仕組みだった。
学校の施設は、実はふつうの中学校だった。午前中はふつうに授業をし、放課後に体操学校に早変わりする。寄宿舎暮しのエリートだけではなくて、ほかの学校から放課後に通ってくる生徒もいる。体操のための施設があり、体操専門の指導者がいる。
卓球などの業余学校もある、スポーツだけでなくて絵画や音楽などの業余学校もあるということだった。それぞれ、そのための設備があり、専任の指導者がいるが、本体は学校の施設である。
これはおもしろい。ある中学は放課後はサッカーと卓球のクラブ、ある中学は野球とバレーボールのクラブというようにすれば、施設を効率的に使える。
指導者の問題も解決しやすい。すべての中学校に、いろいろなスポーツの指導者を用意する必要はない。
その中学校の施設でやるスポーツの専門家だけを用意すればいい。
必ずしも中学校の教員である必要はない。プロの専門家でもいいし一般からのボランティアでもいい。ただし、子どもたちを指導するのに必要な技能と知識は、資格試験などで 保証したほうがいいかもしれない。
この話は、前にもサッカーマガジンで提案したのだが、このたび文部科学省公認になったようなので、改めて紹介させていただいたしだいである。
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