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サッカーマガジン 2003年2月19日号
ビバ!サッカー

協会の登録制度を見直そう
中体連の下部では有名無実に

 日本サッカー協会が新会長のもとで、つぎつぎに構造改革に乗り出そうとしている。その意欲はおおいに歓迎したい。改革するには、まず現状を正しく認識することが必要だ。その一つとして協会のチームと個人の登録制度の現状を真っすぐに見つめる必要がある。

高熱に浮かされて 
 インフルエンザにやられて、3日間、ベッドで高熱に浮かされていた。
 やっと熱が下がりかけて、おかゆ一杯と梅干しを食べかけたところに編集者から「ビバ!サッカーの原稿がまだ来てませんよ」とケータイに催促の電話がかかってきた。あやうく忘れるところだった。
 3日間、高熱でうとうとしながらいろんな夢を見た。 
 ヨーロッパに旅行して、飛行機が着陸しようとしている。窓から下界を見るとサッカー広場がいくつもあって、子どもたちが試合をして遊んでいる。 
 「さすがヨーロッパだ。子どもたちもみなサッカーをしているんだ」と感心したところで、夢からさめた。 
 この夢は30年ほど前に、はじめてヨーロッパへ行ったときの体験の再現である。
 いまの若い人たちは、ヒデや俊輔や高原を見るために、気軽にヨーロッパヘ出掛けるから、飛行場のまわりにサッカー広場が見えること、そこで子どもたちが遊んでいることなどは、めずらしくもなんともないだろう。 
 しかし、ほんの30年前のぼくにはこれがカルチャーショックだった。海外旅行自体、そう簡単に行ける時代ではなかったし、日本ではサッカーというスポーツに関心を持っている人たちは、きわめて少なかった。 
 また、うとうとしていると、夢の続きを見た。続きはひどく現実的だった。 
 「このヨーロッパの少年たちはサッカー協会に登録料を、ちゃんと払っているのだろうか」

登録チーム数
 数年前に、各国協会の登録チーム数の統計を見たことがある。FIFA(国際サッカー連盟)の調査である。それによると日本とドイツの登録数が多く、ブラジルの登録数は案外少なかった。
 この数字を見て「日本とドイツはサッカーが盛んで、ブラジルはそれほどでもない」と結論するのは、もちろん間違っている。現実と合わないからである。
 飛行機の窓から子どもたちのサッカーを見下ろすことができるのはブラジルでは当たり前である。ドイツでも、飛行場の近くにサッカー場があるのは、ありふれた光景だ。しかし、日本では、飛行機の窓から子どもたちのサッカーを見下ろした体験は、ぼくにはない。
 というふうに考えると、登録チーム数の統計は、必ずしもその国のサッカーの様子を表してはいないことがわかる。この統計が表しているのはサッカーの組織についての、その国の人びとの考え方であり、ひいてはその国のサッカー文化のあり方である。
 「ブラジルでは、子どものサッカーを協会や連盟に登録することはないよ。子どもたちは、かってに遊ばせておけば、いつまでもサッカーをやっているよ」
 ブラジル人から、こんな話を聞いたことがある。かってに遊びでサッカーをやっている子どもたちのなかから才能のありそうな子どもを見付け、それを有名なクラブに売り込む。それがスカウトの仕事だということだった。

中学校の登録減少
 ドイツで登録チーム数が多いのは律儀で規則が好きなドイツ文化の特徴の表れではないかと思う。「協会の規則による試合をするチームは、協会に登録し、登録していないチームと試合をしてはならない」というのがサッカー協会の建て前である。それを忠実に守るから、登録チーム数が多いのだろう。
 日本の登録チーム数が多いのは学校チームが主力だからである。学校は、もちろん、まじめだから、登録すべきチームは規則どおりに登録する。練習や試合は学校の校庭でするから、飛行場近くのサッカー場は必要ない。あるいは、飛行機が着陸する時刻は授業中だから試合をしていないのかもしれない。そういうふうに考えれば「日本のサッカーは健全なんだ」と胸を張ってもいい。
 ところがである。 
 中学校のサッカーの指導者から聞いた話だと最近、協会への登録をしない中学チームが増えているということである。 
 市内や町内の中学生同士の試合をするのに、日本サッカー協会に登録しても登録料をとられるだけで、なんの利益もない。  
 県の中学校大会へは、県の中体連に登録しさえすれば認めてもらえる。協会へ登録しているかなどと追及されたことはない。と、まあ、こういう話だった。  
 これは、日本のサッカーが学校スポーツ離れをしつつあることの表れなんだろうか。ドイツ型からブラジル型へ移行しつつあるのだろうか。 
 風邪が治ったら、しっかり調べて考えてみよう。


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