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サッカーマガジン 2003年2月5日号
ビバ!サッカー

高校選手権のたたかい方を考える
市立船橋優勝の意味するもの 

 高校選手権権の決勝は「成人の日」に行われ、久しぶりに東京の国立競技場が満員になった。休日開催の効果だろう。布監督の市立船橋が小嶺監督の国見の3年連続優勝をはばんで3年ぶり4度目の優勝をかざったが、成人の日の決勝開催が優勝の行方に影響しただろうか?

「成人の日」の決勝戦
 全国高校サッカー選手権大会の決勝戦が、今回は「成人の日」に行なわれた。2003年1月13日である。国立競技場はバックスタンドのてっぺんまで、ぎっしりだった。休日に決勝戦をもってきた効果だろう。
 いろいろな考えがあるだろうが、高校サッカーの決勝戦を「成人の日」に固定する案に賛成である。休みの日に試合をすれば、お客さんは応援に行きやすい。準決勝と決勝の間があくので選手たちは、ゆっくり休養をとっていいコンディションで試合をすることができる。いい試合を、おおぜいの人に見てもらうのは、いいことだ。
 反対の考えもある。
 大会日程が長くなって、冬休みから大きくはみ出すので、学校教育に支障が出る。学校スポーツとして不都合だという意見である。実際に大会を運営している高校の先生方にとっては、学期が始まってから授業と大会の両方の仕事をするのはたいへんだろう。
 生徒のほうは、試合は休日だから学業を休まなくてもすむはずだが、短期決戦に集中して戦うのと勉強しながら決勝戦に備えるのとでは、かなり違う。
 国見の選手たちは、1月7日の準決勝のあと、すぐに長崎県まで帰って翌日の始業式に出たという。成人の日は月曜日だから、その前の土曜日曜は東京に戻ってきて体調を整えることができるが、それにしても東京と長崎のとんぼ帰りは、たいへんである。
 東京近郊の市立船橋にくらべて、これはハンデだったかもしれない。

選手権の戦い方
 東京の北千住で開いている「ビバ!サッカー講座」の新年初会合が、高校サッカー決勝戦の前々日にあった。講座のあとの居酒屋での新年会は、決勝戦の予想でおおいに盛り上がった。
 「国見が強そうだ。今回は力が一段上だよ」
 「国見の小嶺監督は、選手権のたたかい方を知り抜いているからな」
 「でも、市船の布監督に勝ってもらいたいな。布さんのほうが、いいサッカーをしているよ」
 意見はいろいろである。
 「うーむ」と、ぼくは考えた。
 ポイントは準決勝から決勝までの5日間の空白である。
 以前の高校サッカーは1月2日からの連日の勝ち抜き戦で、間に休みがなかった。冬休み中に大会を終えるためである。
 帝京の古沼監督をはじめ、当時の優勝候補のベテラン監督は、選手たちの体調とけがを考えながら、そういう連戦をどのようにして切り抜けていくかを心得ていた。それが「高校選手権のたたかい方」だった。
 その後、連戦はよくないというので、大会を年末からはじめることにして、大会の後半は1日おきに休みを入れるようにした。それでも「選手権のたたかい方」はものを言った。
 しかし、今回は決勝戦の前に5日も間がある。そのために従来の「選手権のたたかい方」が通用しないかもしれない。そうだとすれば、「選手権のたたかい方」を心得ている小嶺監督の国見が、必ずしも優位だとはいえないのではないか。

力づくでは無理?
 まず、守りを固める。これが「選手権のたたかい方」の一つのポイントである。勝ち抜きのトーナメントだから一つひとつ慎重に勝っていかなければならない。
 1回戦から自由奔放に攻めまくって、大量得点しても意昧はない。力を貯え、しだいに調子をあげて準決勝、決勝で選手の力を解き放つのが「選手権のたたかい方」である。その点では、布監督も小嶺監督も同じような考えだっただろう。
 問題は攻めのほうである。
 国見は、長いパスを前線にあわせて力強く攻めるのが特徴である。今回は前線に長身のストライカー平山がいたから、なおさらこの攻めが生きていた。
 パスをつなぐ攻めがたいせつであることを、小嶺監督はもちろん心得ている。しかし高校選手権では力づくの攻めが成功することも多い。
 力攻めを防ぎ切るディフェンダーやゴールキーパーを、高校チームでそろえることは難しいという事情がある。それに連戦のすえの準決勝、決勝では、選手たちは疲れているし緊張している。力づくの攻めにあって守りがミスをすることも多い。
 ところが、今回は決勝戦の前に5日の間があった。連戦の疲れをとり、相手を研究して対策を練る余裕があった。力攻めが必ずしも通用しない条件があったのではないだろうか。
 市立船橋はパスをつないで攻めるチームだった。守りは組織的でしっかりしていた。
 決勝戦は好試合で接戦ではあったが、市立船橋が優勝できたのは不思議ではない。


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