アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 2003年1月29日号
ビバ!サッカー

京都サンガの天皇杯優勝を喜ぶ
伝統が育て、新しい花が開いた 

 正月の天皇杯決勝で、京都パープルサンガが、鹿島アントラーズを破って初優勝した。京都紫光の伝統が実を結んだのがめでたい。本物の地域クラブが花咲いたのがめでたい。ぱっとしなかった京都のサッカーの活性化につながるであろうことがめでたい。二重三重に優勝おめでとう。

紫光クラブの伝統
 京都パープルサンガの天皇杯優勝は、若い選手たちによる新しい時代のはじまりを告げるものだと思う。このクラブの古い歴史と伝統は、今回の優勝には直接の関係もないかもしれない。それでも、サンガの優勝を報道した新聞は、このクラブの歴史も小さな囲み記事ではあるが紹介していた。
 もともとは、京都師範の卒業生によって1922年(大正11年)に創設されたクラブが前身である。大日本蹴球協会の設立が1921年(大正10年)9月10日だから、歴史の古さでは、いまの日本サッカー協会とほとんど変わらないわけである。
 もとは紫郊クラブという名前で、第2次世界大戦後の1954年(昭和26年)に紫光クラブになった。京都師範は戦後の学制改革で京都学芸大になり、現在は京都教育大になっている。
 もともと学校の先生を養成する機関だからOBの多くは、学校の先生になった。京都紫光は教員クラブとして国民体育大会などで活躍していたと記憶している。
 日本のサッカーは東京高等師範学校にはじまり、各地の師範学校を通じて普及した。その卒業生が各地の学校の先生になってサッカーを広めた。京都紫光のメンバーも京都府各地の学校の先生としてサッカーの普及に貢献したに違いない。
 こういう学校のサッカーの普及が現在の日本のサッカーの土台の土台である。したがって紫光クラブの伝統が、京都パープルサンガになった現在に花開いたといっても、あながちこじつけとはいえないだろう。

本物の地域クラブ
 こういう由緒(ゆいしょ)あるクラブが天皇杯を獲得したのは、まことに、めでたい。パープルサンガの「パープル」は紫(むらさき)である。紫は高貴な色で天皇の御所のあった京都にふさわしい色である。紫の庭といえば宮中の庭だという。京都には紫野という地名もある。また蹴鞠(けまり)の免許を得た人は紫の袴(はかま)を着用することが許されるのだそうだ。とすればボールを蹴ることにも関係がある。もっとも、これが「紫光クラブ」の名称の由来に関係があるかどうかは確かめていない。
 サンガは仏教のことばで、サンスクリット語で「仲間」あるいは「集まり」のことである。サンガすなわちクラブである。
 というわけで、京都パープルサンガと京都紫光クラブは同じ意味である。80年前に誕生したときから京都を象徴する名称を持ち、地域に根を下ろしたクラブとして育ってきたということができる。
 教員のクラブからスタートして、一般の人びとの加わる市民のクラブになり、いまやプロも加わって日本一になったわけである。
 Jリーグは「地域のクラブ」を掲げているが、多くのチームは企業スポーツから出発し、いまでも企業のしっぽを引きずっている。そんななかで、これまで運営に苦戦していた本来のクラブがようやく力を付けてきた。京都パープルサンガの天皇杯優勝は、J1に上がった大分やJ2で頑張っている新潟、甲府などのクラブにとって励ましになるだろう。

地域活性化のために
 京都はサッカーで長い歴史と伝統があり、底辺は広く、釜本邦茂などの有力選手も育ててきている。京セラや任天堂などのスポンサーもついている。しかし、その割りには、ここまでたどりつくのに時間が掛かった。
 パープルサンガのJリーグ入りは1996年である。ワールドカップの開催地からはずれ、スタジアムもできなかった。いろいろ事情はあったのだろうが、京都の人たちが、ちょっと、おっとり構えすぎていたのではないか。
 パープルサンガの優勝を機会に、これからは、おおいに元気を出してほしいものである。
 サンガは、一時は三浦カズに頼るなど少し見当違いな強化策をとっていたが、方針転換をしてエンゲルス監督を入れ、じっくり若手を育てたのが良かった。この路線が引き続いて成功すればおもしろい。
 京都市が横大路運動公園に土地を提供して新しいスタジアムを作る計画も進んでいるという。いいサポーターが育ちつつあるようだから、雰囲気の盛り上がるスタジアムができれば、京都のサッカーは、ますます楽しくなるだろう。
 京都のサッカーを底辺から盛り上げ、トップを日本一にし、いいスタジアムを建設する。こういうことは、京都師範出身の大長老だった藤田静夫さんが、長い間、夢見ておられたことだった。藤田さんは、3代前の日本サッカー協会の会長である。
 昨年、亡くなられたが、京都パープルサンガの優勝を、見ていただきたかったものだと思う。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ