日本のサッカーにとって2003年はスタートの年である。ワールドカップが終わり、Jリーグは10年の歴史を刻んだ。さあ、次の目標は何か? その第一歩として2003年に何を期待するか? 海外へ進出している若いプレーヤーたちに、その先頭に立ってもらいたい。
ストライカーとして
ジュビロ磐田の高原直泰が、Jリーグ得点王のタイトル付きで、ドイツのハンブルガーSVへ移籍することになった。2年半の契約だというから、次のドイツ・ワールドカップの前年には日本に戻ってくる可能性がある。それまで、がんばってもらいたいし、それ以上にも活躍してほしいが、いずれにしても、ドイツでの経験を次のワールドカップへ向けて、日本代表チームのために役立ててくれることを期待している。
「日本のストライカーが欧州で通用するだろうか」という声もある。
いま、欧州で活躍している日本のプレーヤーは、ほとんどが中盤のプレーヤーである。中田ヒデ、小野伸二、中村俊輔、稲本潤一はレギュラークラスとして通用している。しかし、そのほかのポジションでは活躍がない。ストライカーとしては鈴木隆行がいるが「いま一つ」である。
「前線のプレーヤーは、きびしいマークにさらされるので、体格の劣る日本人が欧州で活躍するのは難しい」という説があるわけである。
だが、この説には賛成しかねる。高原の身長は1メートル81センチ、体重は75キロくらいである。サッカー選手としては、理想的な体格ではないだろうか?
欧州や南米のスタープレーヤーの体格も、こんなものである。というわけで、問題は体格ではない。
ストライカーとしての真価が問われるのは、体格ではなく、ゴールを挙げるセンスにある。その点では、高原は得点感覚にすぐれている。これは日本では証明ずみである。それをドイツでも見せてほしい。
頭脳と筋肉のすばやさ
「得点感覚」とは何だろうか? それは相手に負けない身長でもなければ、マークをはね返す体格でもない。
「得点感覚」には、二つの要素がある。
一つはシュートができるポジションを読み取る能力である。つまり、味方からラストパスを出してもらえるポジションを、すばやく読み取り、その場所に入り込む能力である。これは、マークしている相手との肉弾戦に勝つ力ではない。むしろ肉弾戦を避けてフリーな場所を一瞬のうちに先取りする頭脳のすばやさである。
ポジションを先取りしても、そこに味方からのラストパスが来なければ意味がない。したがって、いいパスを出してくれるチームメートとのコンビネーションが問題になるが、まず、得点できる場所をストライカーが嗅ぎ分けるほうが先である。
得点感覚のもう一つの要素は、すばやくシュートすることのできる能力である。味方からパスがきても、シュートがすばやくなければ、守りの密集地帯のなかだから、すぐにからだを寄せられてシュートのコースを防がれてしまう。短くするどく脚を振ってシュートする。これは筋肉のすばやさである。
もちろん、実際はこれほど単純ではない。しかし、もとになるのは頭脳と筋肉のすばやさである。
高原がブンデスリーガのストライカーとして活躍できるとすれば、高原のこの二つの要素が通用することになる。
野球の松井とともに
正直にいうと、ぼくは日本のストライカーが欧州で通用するとは考えていなかった。からだが大きいプレーヤーは外国にはたくさんいる。筋肉のすばやさにすぐれているプレーヤーも多い。この二つの点で、日本人の遺伝的素質は、それほど、すぐれてはいない。
しかし高原は違う。年末にたまたま、彼がU−15の代表チームでプレーしている試合のビデオを見たのだが、その当時から得点感覚は抜きんでている。
おとなになって、筋肉が強く鍛えられ、経験を積んで頭脳に磨きがかかっているのだから、彼がドイツでストライカーとして通用する可能性は十分ある。
プロ野球では巨人の松井秀喜が米大リーグのヤンキースに行くことになった。松井の場合も強打者の多い米国で活躍できるかどうか危ぶむ声がある。
ぼくは、松井の場合も可能性は十分あると考えている。
1970年代に東京の新聞社でスポーツ記者をしていて、日米野球を取材した経験がある。そのころ投手でも打者でも、日米のパワーの違いは歴然としていた。だから日本の野球選手が米国にいっても、とても通用しないだろうと思っていた。しかしその後、野茂が投手として活躍し、さらにイチローが打者としてトップクラスになって、ぼくの考えが間違っていたことを思い知らされた。松井もスラッガーとして成功するかもしれない。
欧州の高原が、米国の松井とともに成功する可能性は十分だと思う。 |