アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 2002年12月18日号
ビバ!サッカー

歴史を語るサッカー本を紹介!
「6月の熱い日々」の思い出も

 サッカーの本が、たくさん出ている。ワールドカップの直後には「永久保存版」と称する写真集などがいろいろ出たが、たくさん出すぎて採算があわなかったらしい。最近、手にした3冊の本は、そういう「きわもの」とは、ちょっと違うのでご紹介したい。

ビバ!本の第2号
 最近、手にしたサッカーの本3冊をご紹介したい。最初の1冊は手前味噌である。
 サッカーマガジン誌上で延々と続いているビバ!サッカーのページの読者が「ビバ!サッカー研究会」を結成した。これは読売・日本テレビ文化センター北千住の「ビバ!サッカー講座」でいっしょに、わいわいやっている仲間たちが勝手に作った会である。特別な「研究」をするわけではない。研究会は居酒屋でやっている。
 その仲間たちが原稿を持ち寄って本を出した。題して「6月の熱い日々−サポーターズ・アイ」。これはユニークな本である。サッカーのサポーターが、こんな立派な本を出したのは初めてじゃないかと思う。
 筆者のなかには、ちゃんと会社で働きながらワールドカップを19試合見た人がいる。どのようにして切符を手に入れたか。どのようにして仕事をやり繰りしたかを、この本に書いてある。
 アイルランドのサポーターと、とことん付き合って、浅草で宴席を設けて日本舞踊を見せた話もある。世界のサポーターとはどういうものかが分かって目からウロコが落ちる。
 この本は、5月に同じ仲間たちで出した「2002年、サポーターズ・アイ」の続きである。ぼくたちはビバ本第2号と称している。第1号はデジタル出版でインターネット書店で売り出したが、第2号はふつうの本屋さんで注文していただけば買うことができる。
(中央公論事業出版社、定価税込1600円/12月20日発売)

日本サッカー史(代表編)
 次に紹介したいのは、サッカーマガジン誌でもおなじみの後藤健生さんの新しい本「日本サッカー史(代表編)」である。これは本格的な歴史の本である。本文360ページ、資料64ページ、合計424ページにぎっしりと材料がつまっている。
 これだけ克明に調べるのはたいへんだっただろうと思う。事実を集めるだけでなく、それぞれの時代の日本代表チームが、どのようなものであったか、日本のサッカーの歴史のなかでどういう意味をもっていたかを考えて書かなければならない。それもたいへんだっただろう。
 スター選手と話をしたらこういっていたとか、欧州のサッカーの上っ面を知っているとか、そういったたぐいのことで本を書く人もいる。あるいは背筋がかゆくなるような描写をつらねて名文だと思っているような文章もある。そういうものが、たくさん出たあとだけに、本格的な本をずっしり手にできたのは良かった。
 後藤さんは、ワールドカップの前に、この本を書き上げていた。その全部のゲラ刷りを、ぼくのところに送ってきて、出版前に目を通してみてくれと依頼してきた。ぼくにはとてもその任は果たせなかった。これは後藤健生でなければ書けない本である。
 (代表編)とあるからには、今後日本代表チーム以外の、いろいろなレベルの歴史も、つぎつぎに書いていくことになるのだろう。
これは後藤さんのライフワークの第1歩にすぎないのかもしれない。
(双葉社、定価2000円十税)

チュックダン!
 最後に紹介するのはノン・フィクションである。「チュックダン! 在日朝鮮蹴球団の物語」。チュックは蹴球で朝鮮語でサッカーのことだ。
 朝鮮蹴球団は南北に分断されているうちの北側、朝鮮民主主義人民共和国の組織に属していた在日のサッカー選手たちのチームである。1961年に結成され、1999年まで続いた。朝鮮蹴球団は「日本初のプロサッカー・チーム」と言われていた。朝鮮総聯の組織に属しサッカー選手として給料をもらっていたからプロだというわけだが、これには異論もあるだろう。
 河崎三行さんは、かつての選手たちや関係のあった人たちを訪ね歩いて話を聞いた。そのなかの一人として、ぼくのところにも訪ねてきた。
 朝鮮蹴球団は、在日外国人のチームであって、かつ祖国、朝鮮民主主義人民共和国のチームだった。日本の有力チームと同等以上の力があり、日本リーグ(Jリーグの前身)のチームと公式戦で対決することを望んでいた。
 しかし当時の日本蹴球協会は、それを認めなかった。その間に、ぼくも多少の関わりがあったので、その話を聞きにきたのである。
 この本に書いてある内容は、必ずしも、ぼくの考えと同じではない。しかし朝鮮蹴球団を取り上げて紹介してくれたのは、よかったと思う。いまの人たちには知られていないだろうが、日本のサッカー史のなかの隠れた強豪であり、歴史に留めておくべき存在だからである。
(双葉社、定価1800円十税)


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ