アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 2002年11月27日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの総括P
日韓共催の成果を考える

 2002年ワールドカップの、もっとも大きな特徴は、日本と韓国の共同開催だった。共催がうまくいったのか、共催は何を残したのか、今後も共催は行なわれるのか。簡単に答えられることではないにしても、総括のなかで検討しておかなければならない問題だろう。

歴史に残る成果
 ワールドカップの日韓共催は、すばらしい成功だった。両国の代表チームは、ともに目標どおりの、あるいは目標以上の成績を収めた。両国に関するかぎり共催による運営上の問題は少なく、結果として大きな黒字を生んだ。日本も韓国もそれぞれの個性ある文化を世界にアピールすることができた。
 少なくともスポーツの大会としては、共催は予期以上の成果を上げたということができる。
 日韓共催はスポーツだけの問題ではなかった。政治的な、歴史的な背景があった。その面でも大きな意義があったと思う。
 これは欧州選手権をオランダとベルギーが、共催したのとはわけが違う。このあたりはルクセンブルグとあわせて、ベネルックス3国と呼ばれているように、もともと一体感のある地域である。
 一方、日本と韓国のほうは、間を海で隔てられている。そう簡単には往来できない地理的条件がある。ことばも違う。文化も違う。経済力も違う。
 それに加えて1910年から1945年まで35年間にわたって日本が朝鮮半島を植民地にして支配したという、まだなまなましい歴史がある。
 そういう関係の両国が協力して大会運営を成し遂げたことは、それだけで大きな意義があった。
 また、世界の大衆の祭典であるワールドカップだったからこそ、その意義を世界の人びとに知らせることができた。
 これは歴史に、しっかりと刻んでおかなくてはならない成果である。

「競催」にも意義
 「日韓共催」ではなく「竸催」ではないか、という意見は大会の前からあった。それぞれが、相手よりうまくやろうと競争しているという意味である。
 ソウルで行なわれた開会式のエキジビションは、韓国の民族文化のショウばかりで日本との共催の色合いはほとんどなかった。そのことが日本のマスコミで「けしからん」というように取り上げられた。小泉首相のあいさつに対して、ソウル・スタジアムでブーイングが起きたという報道もあった。韓国の民族文化を強調したショウに、ぼくは別に違和感を持たなかったし、小泉首相に対するブーイングには現場にいて気が付かなかった。日本の一部のマスコミでそういうことを問題にしたことを、あとで知って「神経過敏じゃないか」と思ったものである。
 日本と韓国がそろって勝っているうちは、まだ無事だった。ところが日本がトルコに敗れ、韓国がベスト8、ベスト4へと勝ち進むと雲行きがおかしくなった。
 テレビや大手の新聞が、韓国の躍進を「アジアのサッカー」の勝利として称賛しているのは「おかしい」とする意見があらわれ、インターネット上の掲示板などには「韓国の勝利は審判の不正によるものだ」というような書き込みが横行した。
 競争意識が双方にあったことは確かだろう。それは不自然ではない。それまで内にこもっていたものが表に出て、平和なスポーツの大会の場で、お互いにそれを顧みる機会を得たことにも意義があったと考えたい。

若い世代の交流
 「競催」批判のタネになったようなマイナスの現象は「共催」が生んだプラスの現象に比べれば小さなものである。これからは、大きなプラスのほうを発展させるように努力したいものだと思う。
 プラスのなかで、もっとも大きかったのは、両国の若者たちの間で相互理解が進んだことだろう。
 日本での試合の入場券がなかなか手に入らなかったので、ぼくの仲間たちの多くは韓国での試合の入場券を手に入れて観戦に出掛けた。そして現地で韓国のサポーターの人たちと自然発生的に楽しく交流した。その仲間たちが書いた「6月の熱い日々…サポーターズ・アイ」という本が近く出る。そのなかに、その交流の模様が詳しく書いてある。同じような交流が、ほかにも、たくさんあったに違いない。
 サッカーの関係者やサポーターだけではない。芸術や学術などの交流もワールドカップを機会にずいぶん増えた。その結果、日本の若者が偏見なく韓国を見るようになり、韓国の若者が反感を持たずに日本を見るようになりつつある。その芽を大事に育てたいと思う。
 国際情勢、政治情勢がそれほど甘くないことは、ぼくだって知っている。しかし日本、韓国、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、中国などによる東アジアのスポーツ交流は、これから大きく前進するだろう。ワールドカップ中に決まった東アジア・サッカー大会の開催は、その一つになるだろう。それが政治の壁に小さくても、未来へ通じる風穴を開けてほしいと期待している。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ