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サッカーマガジン 2002年11月6日号
ビバ!サッカー

ジーコ日本、ほろにがスタート
ジャマイカとの引き分けの評価

 ジーコ新監督の日本代表チームは10月16日夜に東京・国立競技場で行なわれた試合でジャマイカと1対1で引き分けた。新体制のスタートを勝利で飾れなかったのは、ちょっと、ほろにがい思いだが、新監督の方針がはっきり見えて、見どころも、収穫もあった。

明確になった方針
 ワールドカップの総括を4カ月にわたって延々と連載してきているのを中断して、今回はジーコ新監督のスタートを取り上げたい。10月16日に東京の国立競技場で行なわれた日本代表対ジャマイカ代表の試合である。
 この試合の第一の収穫は、ジーコ監督の考え方が明確に形になってあらわれたことである。
 ジーコが日本代表の監督に決まったとき、ぼくは「ジーコは日本代表選手を育てるつもりはなく、試合をするために選手を選んで、そのたびにチームを作るつもりだろう」と書いた。その後、ジーコ自身もそのような方針を話していた。そして今回の第1戦で、それが明確になったように思う。
 この考えは、その試合の時点で使うことのできるベストの顔触れを選ぶことにつながる。将来のために若手を登用するのは二の次である。
 欧州で活躍している5人を呼び戻したのも、そのあらわれだろう。この点では興行としてのファンヘのサービスとジーコの考えが一致したのだと思う。
 試合ごとに選手を選ぶことになると、チームとしてのコンビネーションなどを、時間を掛けて作り上げることはできない。そのために単独のクラブでの手慣れたコンビを活用することになる。今回、鹿島アントラーズとジユビロ磐田の選手が多くを占めたのは、そのためだと思う。
 オフシーズンに、ある程度の日数をかけて合宿ができるときは別として、ジーコはこういうやり方でチームを熟成させるつもりである。

きらめきの4人
 ジャマイカ戦の見どころは、欧州から呼び戻した4人で構成した中盤だった。稲本潤一、小野伸二、中田英寿、中村俊輔である。とんぼ返りで日本へ来ての試合だから体調十分ではなかったが、それでものびのびとプレーして、なかなかよかった。
 稲本はボランチの位置から積極的な出足で相手のボールをインターセプトしていた。小野は39度の発熱を押して出場して1点をあげた。中田はキャプテンの腕章を巻いて幅広く動いた。中村は気負いすぎが目立ったが「これからやるぞ」という気概が見えたのはいい。
 この4人の中盤を新聞は「黄金のカルテット」と書いていた。しかしばくは「きらめきのカルテット」と呼びたい。
 「黄金の4人」という呼称は1982年スペイン・ワールドカップのときのブラジル代表チームの中盤に付けられた名前である。この4人のなかにジーコが入っていた。
 当時のブラジルの「黄金の4人には、黄金らしい重量感と輝きがあった。今回の日本の中盤の4人はもっと軽やかでスピード感がある。一人ひとりにアイデアがひらめき、それが組み合わされて軽快な攻めを展開する。一人ひとりの個性が、ルビーやエメラルドのように小粒に輝いているので「宝石のカルテット」と呼びたいのだが、宝石は箱のなかにしまっておくか、貴婦人の指や胸に飾られるものだから動きがない。
 日本の中盤4人は動きながら、きらめいている。そこで「きらめきのカルテット」と呼びたいわけである。

守備ラインの不安
 この試合で、ぼくが注目していたのは守備ラインである。
 トルシエ前監督は、いわゆるフラット・スリーの守備ラインを主として使っていたが、ジーコ監督は4人のディフェンス・ラインを採用した。これは、かつてのブラジルの伝統的な守り方である。
 中盤の「きらめきのカルテット」は攻撃的なメンバー構成である。もちろんボランチの小野や稲本が攻撃に進出したときは、1人が下がってカバーすることになるが、全体として前がかりになりがちだろう。そうなると4人の守備ラインは、かなりしっかり守らなくてはならない。そこに注目していた。
 試合後の記者会見で「守備ラインのサイドからの攻め上がりが少なかったのではないか」という質問が出た。
 ジーコ監督は「両サイドの2人は、まずディフェンダーである」と答えた。チャンスがあれば攻めあがるが、本来の任務は守りである、両サイドが同時に攻めあがることはない、ということだった。バランスのとれた常識的な考え方である。「それが正解だ」と思った。
 ただ、今回の顔触れで、4人のうち、25歳の松田以外の3人は年齢的にベテランすぎるのが不安である。その時点でのベストということで、32歳の秋田、30歳の名良橋、29歳の服部が選ばれたのかもしれないが、3年後、4年後のために若手を育てなくていいのだろうかと、つい考えてしまう。ぼくの頭のなかに「選手を育成する」という考えが、まだ巣食っているからだろうか?


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