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サッカーマガジン 2002年10月30日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの総括M
お粗末なメディアサービス

 2002年ワールドカップは、大会運営の面でも成功だったと思う。ただし、欧州のバイロム社が担当した入場券と宿泊を除いての話である。しかし、日本側にも、部分的に見れば大失敗も小失敗もある。取材の報道陣などに対するお粗末なメディアサービスは失敗の一つだろう。

食べ物の恨みは…
 メディアサービスについての不満や苦情を取り上げたくはない。というのは、ぼく自身がジャーナリストとしてワールドカップを取材し、メディアサービスを受ける側だったからである。サービスしてもらったくせに、不満を言うのはぜいたくである。
 それに、不屈のジャーナリスト魂をもってすればサービスなぞは必要ない。逆に多くの妨害を受けても、取材拒否をされても、それを乗り越えて真実に迫るのがわれわれの仕事である。
 だけど…。
 今回はちょっと腹に据えかねた、ではない、腹がすきかけた。メディアサービスのなかで、食堂のサービスが最低だったからである。
 各競技場には、報道関係者の仕事場としてメディア・センターが設けられている。その中に簡単なレストランもある。そのレストランが今回はひどかった。
 サンドイッチとおにぎりとペットボトルの飲み物だけを置いたコーナーがある。コンビニの食べ物コーナーの一部だけを切り取ってきて置いたような感じである。それも、遅く行くとしばしば売り切れている始末だ。
 そこで、スタジアムに着くと真っ先に、おにぎりとお茶を買って、粗末なテーブルといすが並べてあるところで、ぼそぼそと食べて飢えをしのぐ毎日だった。
 武士は食わねど高楊子というけれど、腹が減ってはいくさはできぬということばもある。食物の恨みはおそろしい。

外国人に恥ずかしい
 「ぼくたちは、おにぎりでいいけど外国からきている連中に、日本はこの程度かと思われるのがくやしいよ」と友人が言っていた。ワールドカップを何度も取材したベテランのカメラマンで、欧州や南米に知り合いの同業者がなん人もいる。
 外国の大会で取材しているとき、欧州や南米のカメラマンに「日本でワールドカップを開くときは、こんなもんじゃないぞ。もっといいサービスをするぞ」と自慢の予告をしていた。ところがいざ、ほんとに日本で開催することになったら、せいぜいでサンドイッチとコーラである。「外国の仲間に顔向けできない」と友人のカメラマンは怒っていた。
 4年前のフランス大会のときは、メディアセンター自体が、どこでもずっと立派だったし、レストランもちゃんとしていた。それでも、食べ物に関してはスポンサーのマクドナルドが権利をもっているので、ぼくたちは「美食のフランスヘきてマクドナルドか」と悪口を言っていたものだ。
 今回は、食べ物のスポンサーはレストランの運営を引き受けなかったらしい。しかし大会自体の広告スポンサーにはなっている。したがってスポンサーの製品とぶつかるような食品を並べることはできない。「そういうわけで、メディア・レストランがお粗末になったんだよ」と事情通が言っていた。
 韓国でも、メディア向けの食べ物サービスのひどさは、似たようなものだったから、事情通の言うのが本当かもしれない。

情報提供サービス
 もちろん、メディア・サービスの大事な部分は食べ物ではない。報道関係者が働きやすい環境を整え、正しい情報を十分に提供する一方で、過剰な報道競争から選手たちや大会運営を守るのが主要な仕事である。
 そこのところのバランスが難しい。現在のワールドカップでは、情報サービスはコンピューターを使ってインターネット、あるいはイントラネットで提供される。インタビューや記者会見の内容も、英語をはじめ、いくつかの言語に訳されて、パソコンのディスプレー上で見ることができる。
 日韓両国でも、もちろん、そういうサービスが行なわれたが、この点でも前回のフランス大会より見劣りがした。
 これはコンピューターのハードやソフトの問題ではなくコンテンツの問題である。つまり提供する情報の中身が問題である。そのためには、一つの通信社と翻訳会社が結びついたような組織が大会運営の内部に必要になる。そういう組織が有能で、かつうまく機能していたかどうかである。
 メディア・サービスは必ずしも日本と韓国の組織委員会(JAWOCとKOWOC)の責任ではない。国際サッカー連盟(FIFA)が指揮統括し、その下請けをしている連中が欧州から乗り込んできて仕切ったからである。地元の実情をよく知っている開催地の能力を活用しないFIFAのやり方に問題がある。
 それにしても、せめて食い物ぐらいJAWOCでなんとかできなかったのか? この恨みは忘れないぞ。


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