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サッカーマガジン 2002年10月2日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの総括I
韓国サポーター熱狂の真実

 ワールドカップ2002の期間中に、韓国のソウルでの中心部を埋めた赤いシャツの大群衆と「テーハンミングッ」の合唱は、世界中を驚かせた。数百万人といわれる人たちがとつぜん集まったのはなぜだろうか? あの熱狂は韓国サッカーの今後につながるのだろうか?

テーハミングッ現象
 ソウルの市庁前広場から光化門にかけての大通りを、Be The Redsと書いた赤いシャツのサポーターが埋めつくし「テーハンミングッ(大韓民国)」のコールを繰り返した。
 この光景はテレビの映像を通じて日本の人たちにも強烈な印象を残した。ソウルだけでなく韓国の他の開催都市でも同じような群衆行動が展開されたという。
 韓国代表の試合のスタジアムの中だけでなく、町のなかで同じ時間に、大群衆が応援活動をした。あの人たちは、どのようにして、どんな気持ちで集まったのだろうか? あの社会現象にはどんな意味があったのだろうか?
 そういうことを知りたいと思っていたら、たまたま、韓国のサポーター組織「レッドデビル」の代表者から話を聞く機会があった。
 サッカーの好きな関西の大学の教員たちが集まって3年前から定期的に日韓メディア・スポーツ研究会を開いている。この研究会と日本スポーツ社会学会の共催で「日韓ワールドカップの熱狂を読む」と題するシンポジウムを開いた。9月7日、大阪千里山の関西大学百周年記念館である。そこにレッドデビルの代表を招いた。
 シンポジウムでは、韓国の現象だけを取り上げたわけではない。いろいろな人たちを招き、いろいろな角度から議論をした。 
 しかし、ここではソウル市庁前の赤い大群衆に象徴されていた「テーハンミングッ現象」にしぼって紹介することにする。

レッドデビル代表の話
 韓国からお招きしたのは、レッドデビルのシン・ドンミン(申東民)さんである。シンさんは、ワールドカップのときにはソウルで内外の報道陣へ応対に追われていた広報部門の責任者だ。レッドデビルの代表者が外国へ出て説明するのは、これがはじめてだという。
 「レッドデビルス(複数)ではなく、レッドデビル(単数)が正式な名前です」という話から説明が始まった。「私たちは、韓国のサポーターを平和な、暴力のないサッカー応援に導いたと自負しています」
 そのとおりだと思う。
 100万人もの人びとが、みな同じ赤いシャツを着て同じように叫んでいるのを、テレビの画面で見ると、扇動された人びとが群集心理の催眠術にかけられているような恐ろしさも感じるが、現場で中に入ると、そんなことはない。若い女性が多く、子ども連れもいる。みな自発的に参加して応援を楽しんでいた。
 パネリストとしてシンポジウムに参加したイタリアANSA通信の東京支局長、ロベルト・マッジさんはこういう話をした。
 ソウルの市庁前広場の群衆を取材したことは前にもある。1970年代には反体制の学生たちが、ここで集会を開き、火炎瓶を投げたりした。今回も同じように若者が集まったが、今度はお祭りを楽しむための人出だった。この違いに韓国が成熟した社会になったことを感じて、非常にうれしい。試合でイタリアが韓国に敗れたのは、イタリア人としては不本意ではあったけれども……」

インターネットの力
 それにしても、あの大規模な群衆行動は、どのようにして起きたのだろうか。シン・ドンミンさんの説明では、こうだった。
 レッドデビルは、ワールドカップの1年前から4つの企業の協力を得て、総額12億ウォン(約1億2000万円)で、Be The Redsのキャンペーン・イベントを組み、テレビとも協力した。そして、その剰余金3億ウォン(約3000万円)を運営資金として、主としてインターネットを通じて会員を募集した。
 インターネットを通じて集まった会員は27万人。会員は1日に1回以上ホームページに接続する。メールマガジンを通じて情報を交換し、ホームページのフォーラムで意見を述べる。
 運営担当の役員20人は無給である。みな他に仕事を持っており会議を開く時間が取れないので、連絡は主としてeメールに頼った。シンさんは「レッドデビルの会員はネチズンです」と笑った。ネットを通じて結ばれた市民(シチズン)という意味である。
 レッドデビルが核になり、スポンサーとテレビの協力でキャンペーンを張り、インターネットを通じて波及して、あの社会現象が生まれたということだろうか。問題も多かったそうだが、予想をはるかに超える成功だった。
 ワールドカップ後は、スポンサーに頼るのをやめ、地方に仕事を委譲し、ホームページを通じてガイドラインを流すことを中央の仕事にすることにしたという。「肥大化してはならない」という考えである。


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