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サッカーマガジン 2002年10月9日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの総括J
韓国ボランティアの真実

アイデア奨学金
 前にも紹介したことがあるが、ぼくの勤めている加古川市の兵庫大学には「アイデア奨学金」というユニークな制度がある。意欲的にやりたいことがあって、それが独創的でおもしろかったら資金を援助する制度である。学業成績や家計の状況は、あまり関係がない。
 ことし、健康科学部健康システム学科の学生が、この奨学金を申請して認められた。サッカーの好きなスポーツマンである。そのアイデアは「ワールドカップのボランティアについて」調べるというものだった。自分自身が大阪の長居競技場でボランティアをする。その体験もあわせて、日本と韓国でボランティアをする人たちの話を聞いてレポートにまとめてみようという計画である。
 申請を出したときに学生課で「牛木先生に相談したらどうか」とアドバイスされて、ぼくのところへやってきた。
 「そりゃ、たいへんだ。韓国にも行かなきゃ」とぼく。「だから、先生の顔で助けてもらおうと思って」と学生。
 こういう積極的な学生を応援するのが、この奨学金の趣旨だから、ひとはだ脱ぐことにした。そこで大会前の春休みと大会後の夏休みに、2人で東京とソウルに行って、組織委員会の担当者やボランティアの人たちにインタビューをした。学生本人は大会中は、自分自身がボランティアを体験した。
 実は、ぼくもワールドカップとメディアについて調べる計画をもっていたので「ついでだから、いっしょに」ということにしたのである。

日韓の違いは?
 ワールドカップの運営を手伝うボランティアを公募したら、日本でも韓国でも予想以上におおぜいの応募があった。これは、その当時、新聞などにも載っていた。
 「でも、応募した人たちの階層や動機が日本と韓国では違うのではないか」と、ぼくと学生が想像した。
 日本では、主として若い人が「好きなサッカーの世界的イベントで、ひと役買おう。あわよくば競技場内担当になって試合を見られるかも」と個人的な動機で応募したのではないか。そもそも、学生本人が、そのつもりでボランティアを志望している。
 一方の韓国の人びとは「国家的事業に協力して韓国の国際的地位を向上させるのに貢献したい」と民族意識に燃えて応募したのではないか。したがって年配者が多く、必ずしもサッカーファンではないのではないか? これが、ぼくと学生が事前に考えた仮説である。
 とはいえ、これを本格的に調査するのは難しい。両国のボランティアは人数が多いだけでなく多種多様である。このなかから適正に被調査者を選び出して調べるほどの社会調査の技能は持ち合わせていない。それほどの資金もない。学生にしてみれば奨学金の金額は、関西から東京とソウルに2度づつ往復するだけで精一杯である。
 というわけで、本格的な調査は専門家に任せ、ぼくたちは、もっぱら足と目と耳を使って聞いて歩くことにした。ついでに韓国で、やすいグルメもしたけれども…。

日常的な奉仕活動
 夏休み後の9月上旬にソウルへ行ったときは、ワールドカップに関係のない団体も二つ訪ねた。
 一つは「韓国自願奉仕団体協議会」で60以上のボランティア団体の連絡組織である。加盟している団体は地域単位あり宗教団体ありと、いろいろである。
 事務総長のユン・スクイン(尹錫仁)さんに話を聞いた。「ワールドカップのときは応援以外のいろいろな部門にボランティア志望者をあっせんしました。60団体から1万人ぐらいは出たでしょう。また各団体がそれぞれ独自の活動もしました」。たとえば、ある仏教の宗派は、お寺を海外からのお客さんに宿舎として提供したという。
 もう一つ訪ねたのはソウル市の「江南区自願奉仕センター」である。ここは区役所の外廓団体の財団で、ボランティア志願者を常時、受け付けて、仕事をあっせんしたり、訓練したりしている。専務理事のキム・ヒョンオク(金顕玉)さんは「私どもはワールドカップには直接の関係はありません。3年前から日常的に運営しています」と話してくれた。
 こういうような取材を総合してみると、韓国ではボランティア活動が自治体単位で、ふだんから、かなり組織化されているようだ。そういうところで奉仕活動の経験のある人たちがワールドカップにも協力したのだろうと推測した。
 そのほか組織委員会の担当役員やボランティアをした個人にもインタビューした。その詳しい内容は、いま学生が、せっせと整理してレポート作成中である。


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