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サッカーマガジン 2002年9月25日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの総括H
ボランティアは役立ったか

 ワールドカップ2002では、日本だけで約1万5千人のボランティアが働いた。この人たちは、大会運営にどのように役立っただろうか? 働いた人たちは満足しただろうか? スポーツにとってどんな意味があっただろうか、問題はなかっただろうか?

プロとの分担は?
 ワールドカップのボランティアとして成田空港で働いた人の話を前号で紹介した。
 東京の読売・日本テレビ文化センターで開いている月2回の「ビバ!サッカー講座」の仲間の1人である。そのボランティア体験談は10月に講座で出版する予定の本に掲載することになっているが、ここで、ちょっと失礼して、その一部を紹介させてもらおう。
 この女性は、各国報道陣の仕事場になる横浜の国際メディアセンターの駐車場で活動することになっていた。ところが、輸送の仕事は、お金を払って雇う人たちにやってもらうことになって、この女性は成田空港にまわされた。
 ワールドカップ日本組織委員会(JAWOC)の担当者に聞いた話では、輸送関係の仕事は危険をともなうので無償のボランティアにはやってもらわないで、プロの運転手をお金をはらって雇うことにしたのだという。
 成田空港にまわされた女性は、そこで研修のときには見かけなかった人たちといっしょになった。この人たちは、JAWOCから請け負って成田空港を担当した会社が依頼した派遣会社から来た人たちだった。
 これは難しい問題を含んでいる。駐車場で雇われる作業員は危険をともなう専門的な仕事を担当するわけだが、成田空港へ派遣会社から来た人たちは特別な能力を持っているわけではない。そしてボランティアの人たちと同じ程度の仕事をする。それでいて一方は無償で働き、一方はお金をもらう。これはおかしい。

仕事への使命感
 派遣会社から来ている人たちが、専門の能力を持っていれば話は別である。ぼくはサッカー以外のスポーツの大会の運営を役員として手伝ったことがあるが、そのとき通訳会社から来てもらった人たちと、いわゆる語学ボランティアとでは、能力に雲泥の差があった。外国語のレベルに差があるだけでなく、プロフェッショナルとして仕事に取り組む態度に大差があった。こういう場合は担当してもらう仕事の性質も違うし、責任の程度も違う。
 ところが成田空港の場合、派遣会社から来た人たちはアルバイトで、特別の能力を持っているわけではなかったらしい。むしろサッカーやワールドカップについては、ボランティアの人たちのほうが知識も経験もある。それでいて一方はお金をもらい、一方は無償ではバランスがとれない。
 ボランティアの人たちのなかにはサッカーファンがいるから、働きながらサッカーの選手や役員の顔を見る機会があると期待していた人たちもいただろう。ところが、そういう機会のある仕事は、すべて派遣会社から来たアルバイトが担当した。空港の仕事を請け負った会社は、ボランティアが選手や役員に付きまとうのをおそれて、そうしたのかもしれないが、お金で雇われたアルバイトはプロ意識を持っていない。プロとしてのけじめはない。むしろボランティアのほうが使命感を持っている。
 ボランティアのなかにはJAWOCに抗議をした人もいた。いやになってやめた人もいた。

参加感と満足感
 このような問題もあったが、ワールドカップのボランティアが、うまくいかなかったのかといえば、そうではない。ぼくが聞いた話を総合してみたところでは、過去の多くの大会に比べても、もっとも、うまくいったと思う。
 ぼくが聞いたかぎり、ボランティアとして参加した人たちは、おおむね満足している。大きなイベントに参加できたことに満足している人もいる。自分の能力を生かせたことに満足した人もいる。こういう点については、大学の先生たちで調査をしたグループがあるから、そのうち客観的なデータが発表されるだろう。
 今回のボランティアには、ユニークな点がいくつかあった。
 その一つは、公募して選考したことである。一部は大学のサッカー部などの組織を動員したが、多くは公募だった。応募した人を無差別に受け入れたのではなく面接をして選考した。そのために採用されてからの脱落が比較的少なかったらしい。長野オリンピックや大阪の東アジア競技大会と大きく違う点である。
 全国10会場で、べつべつにボランティアを集めたのも珍しいことだった。こういう機会は、今後はそうそうはないだろう。それぞれの会場でどういう違いがあったか、調べてみたいところである。
 ボランティアは効率がいいとは限らない。しかし、役立ちたいと思う人たちが参加感を持ち、役立ったことに満足感を持つ。そのことに大きな意義がある。ワールドカップのボランティアは及第点だった。


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