ワールドカップを日本で開催して非常によかったことの一つは、世界のサポーターを迎えたことである。異文化そのものといっていい各国の応援ぶりに、これまでサッカーになじみの少なかった人たちも目をみはった。日本のサポーターは彼らとおおいに交流した。
おばあさんの好奇心
山陽新幹線の西明石駅の窓口で、こんな光景に出くわした。ワールドカップの試合が大阪の長居競技場で行なわれる日である。
「長居競技場に行くんだがね。どう行ったらいいかね」
駅員に食い下がっていたのは、かなり年配のおばあさんである。
「大阪駅まで電車で行って、乗り換えて阪和線の西田辺で降りるのもあるし、梅田から地下鉄で長居に行くのもありますよ。でもね。きょうは競技場の入り口によって降りる駅が決まってますからね。試合のチケットを見せてください」
「チケットは持ってないがね」
「チケットなしでは入場できませんよ。ワールドカップの切符は、みんな売り切れですよ」
「試合見ても(私には)どうせわかんないがね。外でお客さんを見るんだがね」
「え、お客さんを?」
「テレビで見たら、おもしろい外国のお客さんが、ぎょうさん来てはるさかいに、お客さんを見にいこうと思ってさ」
いまどきのおばあさんは、歳はとっても心は若い。好奇心と行動力がいっぱいである。
このユーモラスなやりとりを聞いていて気が付いた。
今回のワールドカップの予想以上の盛り上がりには、外国から来たサポーターたちが、おおいに貢献しているのではないか。
サッカーになじみのなかった人たちに「ワールドカップは、おもしろそうだな」と思わせる役目を果たしたのではないか。
異文化交流の体験
大会が終わって間もなくのころ、新潟駅前の理髪店で、こんな話を聞いた。
「あんなにおおぜいの外国人が来たのは、はじめてだね。駅前にも繁華街にも外国のサポーターがあふれてたね。いろんな外国人を知ったのは新潟にとってよかった」
「つまり異文化理解に役立ったわけだ」
「サッカーで、あんなに楽しくお祭り騒ぎをするとは知らなかった。あれはよかった」
新潟で試合をしたチームのうち、アイルランド、メキシコ、イングランドには、ひときわ、すばらしいサポーターがついていた。それぞれに独特の雰囲気を持った集団である。さまざまな個性の人たちを迎え、その人たちとつきあった新潟の人たちは、たしかに貴重な異文化交流を体験したといえるだろう。
今回のワールドカップで、ぼく自身も、サポーターについての認識を新たにした。それは、サポーターたちは三つの目的を持って来日しているということである。
第一は、もちろん自国のチームを応援することである。ホームと同じ応援をすることによって、チームはおおいに勇気づけられる。
第二は自分たちがワールドカップを楽しむことである。列車のなかでも、駅前でも、競技場の周辺でも、歌い、叫び、歓声をあげて、お祭り騒ぎを楽しんでいた。
そして第三は開催国の地元サポーターたちと交流することである。その準備をして彼らは来日している。
ビバ講座の本作り
仲間の1人が成田空港でボランティアをした。そこでメキシコからのサポーターを出迎えた。
メキシコのグループの1人は降りるとすぐ民族衣装に着替えて入国ゲートから出てきた。日本の土を踏んだ瞬間から支度をしたわけである。
もう1人はソンブレロを5つも抱えて出てきた。メキシコ独特のツバの広い帽子である。大きなものだから持ってくるのは、たいへんだったはずだが、入国してすぐ日本のファンと交流して記念品交換をするために機内持ち込みで持ってきたわけである。異文化交流がサポーターの目的の一つであることを示している。
これは、いま作っている新しい本の原稿で知った話だ。
このページの愛読者を中心に、東京の読売・日本テレビ文化センター北千住で月2回、「ビバ!サッカー講座」を開いている。サッカーを語り、文章にするための講座で、みんなで書いた原稿を持ち寄って本にすることにしている。
ワールドカップ前には「サポーターズ・アイ」という題で1冊出版した。引き続いてワールドカップの体験を集めた第2号を10月に出版しようと、ただいま編集中である。
そのなかに、この話があったわけである。この本は、サポーターの立場からのワールドカップ体験記が詰まったユニークな本になりそうである。
ところで、わが講座は10月からの新しい学期の仲間を募集中である。問い合わせ先は、読売・日本テレビ文化センター北千住
|