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サッカーマガジン 2002年9月11日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの総括F
すばらしい専用スタジアム

 日本のワールドカップ10会場のうち、陸上競技用のトラックのついていない球技専用スタジアムは三つだけだった。サッカーを楽しむためには、観客席とフィールドとの距離が近い専用球技場のほうがいい。鹿島、埼玉、神戸の三つを比べながら、将来の活用法を考えてみる。

球技専用がいい
 英国にエリック・バッティというサッカー記者がいた。1970年代にサッカーマガジンに寄稿していたから古い読者は覚えているだろう。
 1974年のワールドカップのとき、そのエリック・バッティさんが「西ドイツ大会は、運営はいいが、スタジアムが良くない」と言っていた。なぜ、良くないかというと、陸上競技場兼用だからである。
 西ドイツ大会の決勝戦が行なわれたミュンヘンのスタジアムは、その2年前のオリンピックでは主競技場として使われたところで、当時としては最新のデザインと設備を誇っていた。
 それでも、エリック・バッティさんは「わが国のサッカー場のほうが見やすい」という。当時のイングランドのサッカー場は、屋根を支えるための柱がスタンドの中に立っていて観客の視線をさえぎるような旧式のものだった。しかし「観客とプレーヤーの距離が近いからいい」という意見である。
 サッカーの試合を見るのに、球技専用のスタジアムが理想的なことは言うまでもない。陸上競技用のトラックがないので観客とフィールドの距離が近くなる。1階の前のほうの席だとプレーヤーの息づかいまで聞こえて迫力がある。4万人収容のスタジアムになると、最上階のてっぺんの席からはプレーヤーは豆粒のように小さく見えるが、それでもフィールドを真下に見下ろす感じで試合の展開が見やすい。また、スタジアム全体がコンパクトになり、スタンドの屋根に歓声が反響してムードが盛り上がる。

屋根架け工法競争
 ワールドカップで使った日本の10会場のスタジアムのうち、球技専用は、鹿島、埼玉、神戸の3つだけだった。6つは陸上競技場兼用で、残る一つは野球場兼用の札幌ドームである。韓国は10会場のうち7つがサッカー専用だった。ワールドカップのため、サッカーのためという立場だけで見ると、競技場については韓国に軍配があがる。
 専用スタジアムは、いずれも、すばらしい。エリック・バッティさんが「いい」といっていた古い英国のサッカー場とは、くらべものにもならない設備と美しさである。
 最近の新しいスタジアムは「屋根の架け方」のコンクールになっている。スタンドの中に支柱を立てないで大きな屋根を支える工法の建築工学的実験場である。もちろん、今回の日韓のどのスタジアムも独特の工法を競ってスタンド内に支柱などはない。
 サッカーを見やすいかどうかでは日本の三つの専用スタジアムでは、目だった優劣はない。フィールドの距離が、もっとも近いのは神戸である。1階席で見ると断然、迫力がある。上のほうの階で見るなら、鹿島が見やすい。埼玉は収容能力がもっとも大きいので、最上席になるとフィールドとの距離は、かなり遠くなるが、それでも陸上競技場兼用の巨大スタジアムとは、見やすさの点で雲泥の差がある。
スタジアム全体の威容では、埼玉が一番だろう。周辺が広いので際立って立派に見える。神戸も鹿島も、それぞれにデザインは美しい。

交通の便には差
 三つの専用スタジアムで差があるのは、交通の便である。 
 一番、便がいいのは神戸のウイング・スタジアムだろう。市街地の中にあり、JR神戸線の兵庫駅から歩いて15分程度、地下鉄海岸線なら御崎公園駅から5分程度である。ただし、駅から近すぎるのも、よしあしで、試合が終わった後にお客さんが地下鉄の駅に殺到すると大混雑になる。
 埼玉スタジアム2002は、ワールドカップのときは、JRの京浜東北線の駅からシャトル・バスが出ていたが、かなり時間がかかった。東京の都心部からは新しい地下鉄の南北線の終点、浦和美園駅が便利である。スタジアムまで歩いて20分くらい。サッカーを見に行くには、これくらい歩くのがいい。ただし、試合終了後、スタジアムの周辺部は大混雑で道路まで脱出するのが、たいへんだった。
 カシマ・スタジアムは、東京から往復するには、交通事情の点では最悪である。試合が終わった後、東京へ戻る列車に間に合うかどうか、ぎりぎりになる。東京駅に着いても、深夜にそこから自宅まで帰る電車への接続に間に合うかどうか。これは、今後なんらかの対策を工夫する必要がある。
 この三つの専用スタジアムの今後の活用法は明らかだろう。主として鹿島アントラーズ、浦和レッズ、ヴィッセル神戸のホームとして利用することになる。すばらしいサッカー競技場を活用して地域のスポーツを盛り上げるのは、Jリーグとそのクラブの責務である。


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