ワールドカップの会場になった各地の巨大スタジアムは、今後はどのように使われるのだろうか? 地域に根ざしたクラブのスポーツの根拠地として活用できるだろうか? まずは国民体育大会のために作られた陸上競技兼用のスタジアムを評価してみよう。
国体用の競技場
ワールドカップが終わって間もなく、東京の新聞社の記者から電話で意見を求められた。
「ワールドカップのために作ったスタジアムを、どう活用するかという特集記事を企画してるんですが、ご意見をきかせてください。たとえば宮城スタジアムは……」
「ちょっと待って……。宮城スタジアムはワールドカップ用じゃありませんよ。あれは国体の開会式のために作られたものですよ。国体が終わったあと、ワールドカップに利用したわけですが、今後はもう使い道はありませんよ」
「だから、どう活用すればいいかと………」
「遺跡ですよ。ローマのコロッセオみたいに、遺跡になって後世には観光名所になるかもしれない」
「まじめに話してくださいよ。じゃ、宮城以外のスタジアムはどうですか?」
「ぼくの見たところ、宮城がワースト・ワンですね。そのほか静岡のエコパと大分のスタジアムが、これから活用に苦しみそうだな」
いずれも国民体育大会のために新設された陸上競技場である。
国体の陸上競技で何万人ものスタンドが必要なわけではない。開会式の入場行進のときだけ満員になる。国体は都道府県持ち回りだから、およそ50年に一度しかまわってこない勘定である。そのために巨大な遺跡を建設した。
これは壮大なムダである。それをワールドカップで利用させてもらったわけだが、それくらいではとても引き合わない。
宮城は取り壊す?
宮城スタジアムはワールドカップ前年の国民体育大会(国体)のために、大きな体育館などとともに、山のなかを切り開いて建設された巨大なスポーツセンターの一部である。
国体の開会式では満員になった。ワールドカップでは、日本対トルコの試合の会場になっておおいに盛り上がった。しかし、このあとに、4万人のスタジアムを活用できるイベントがあるだろうか。
ロックコンサートなども考えられるけれど、なにしろ仙台駅から山の間の道を縫いながら丘を越えてたどりつかなければならない不便な場所にある。国体開会式とワールドカップのときは自家用車を厳重に禁止したからなんとかなったが、それでもバス輸送でかなり時間がかかった。ふだんのイベントでは、国体やワールドカップ並みの交通規制はできないだろうから、ひどい交通渋滞になるだろう。それにこりて、なまなかのイベントでは誰も行こうとはしなくなるだろう。
「宮城スタジアムは取り壊せという意見があるようですよ」
「まさか」
「いや、このまま置いておいても使い道がない。維持費が年間、何億円もかかるので、壊したほうが安上がりだという話です」
本当に壊すとは思わないが、そういう意見があっても不思議はない。
Jリーグのベガルタ仙台は、仙台駅から地下鉄で行ける市営のスタジアムを使っている。宮城スタジアムはサッカーのためには、べつに必要ではなかったのである。
新潟がベストだが
国体用の陸上競技場は、宮城のほかにも新潟、横浜、静岡エコパ、大分がある。
スタンドの構造は新潟と静岡エコパがいい。陸上競技のトラックのスペースをはさんでいるのでフィールドは遠いが、その割りにはサッカーも見やすい。これはスタンドの傾斜が比較的急なためである。
競技場へのアクセスは、横浜が便利である。新幹線、地下鉄、私鉄の駅から歩いていける。新潟もちょっと遠いが駅から歩くことができる。平野のまんなかにあるので、車で行っても大丈夫だろう。 駐車場のスペースも広い。大分は市街地からは、ちょっと遠い。宮城と静岡は山のなかで交通の便は最悪である。
最大の問題は将来の利用である。新潟はアルビレックス新潟の、大分は大分トリニータのホームとして活用できれば文句はない。新潟はすでにアルビレックスの試合に3万人以上の観客を集めていて、いまのところ出足はいい。
大分は開閉式の屋根をつけるなど、スポーツ以外のイベントに利用できるようくふうしているが、これは維持費の点て採算にあうかどうかが課題である。横浜はスタジアムの構造は最悪だが、大都市圏のなかにあるので、利用率は高くできるかもしれない。
というわけで、総合してみると陸上競技兼用のスタジアムのなかでは、新潟がベストである。しかし、その将来は、いまJ2で上位を争っているアルビレックス新潟を、新潟県民が守り立てていけるかどうかにかかっている。
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