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サッカーマガジン 2002年8月14日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの総括B
ジーコ日本代表の未来は?

 トルシエ監督は2002年ワールドカップ・ベスト16の成果を残してフランスへ帰った。後任にはブラジル人のジーコになった。トルシエの成果は白紙に戻って、これからの日本代表チームは、ジーコ・ジャパンへ向けて、またゼロから出直すのだろうか?

育てるから使うへ
 「明確な目標がないかぎり強化合宿はしない」。7月22日の就任記者会見で日本代表新監督のジーコが、こう言ったのを聞いて「そうだ、これで日本代表の作り方が変わるんだ」と思った。何が変わるかといえば「育てる」から「使う」へである。
 ジーコが言いたいのは、こういうことだろう。
 「強化合宿を重ねて日本代表選手を育てるつもりはない。ある国際試合に勝つという明確な目標のために、すでに育っている選手を集めて、そのたびにチームを作るのが、自分の仕事だ」
 日本では「選手を育てる」という表現がよく使われる。日本人は「教え育てること」つまり教育が重要であると信じているので、スポーツのチームも「教え育てる」ものだと思い込んでいる。
 しかし、日本代表チームは「教育の成果」をはかる通知表のようなものだとしても、教育の場そのものではない。
 おそらくジーコは、すでに育っている選手を使って日本代表チームを作るつもりだろう。自分で選手を育てるつもりではない。
 これはサッカーが成熟している国なら、ふつうのやり方である。
 では、選手はどこで育つのか?
 広く考えれば、全国の少年チームや学校チームで育ちはじめるわけだが、代表チームについていえば、Jリーグのプレーヤーを集めてチームを作るのだから、選手を育てるのはJリーグのクラブの仕事、その選手を集めて国際試合で使うのが、代表監督の仕事ということになる。

3人の外国人指導者
 日本のサッカーの歴史を振り返って、日本代表チームのレベルアップに大きな貢献をした外国人指導者を3人あげることができる。
 まず、1960年代にドイツから来たデットマール・クラマーである。クラマーは東京オリンピックに出場する日本代表を強化するために日本に来たが、当時の日本のサッカーのレベルがあまりにも低かったので、まず一人ひとりの選手の技術と戦術の基礎から教え直した。代表選手だけでなく、当時の日本のサッカーの選手供給源だった高校や大学の指導も改革した。つまり、底辺の一人ひとりの選手を育てることから始めたわけである。それが1968年のメキシコ・オリンピックの銅メダルになって実った。
 1990年代に日本をアジアのチャンピオンにしたのは、オランダ人のハンス・オフトだった。そのころには選手たちのテクニックのレベルは、かなりあがっていた。そういう選手たちを集めて、オフトは、グループ戦術の基本をおさらいさせた。つまり、ある程度は育っていた選手を集め、さらに戦術能力を育ててチームを作り上げたわけである。
 2002年ワールドカップの日本代表を率いたのは、フランス人のフィリップ・トルシエである。トルシエは、技術も戦術能力もかなり高いレベルに育ってきた選手を自分がめざすサッカーに合うように育てた。ユースやオリンピック・チームの年代から指導したけれども、一人ひとりの選手を育てたというより「自分のチーム」を育てたわけである。

新監督の仕事
 おそらく、新監督のジーコがイメージしている日本代表チームの作り方は、過去の3人の外国人指導者のどれとも違う。
 ジーコが考えているのは、選手を育てることでもなければ、チームを育てることでもない。すでに育ちあがっている選手を使いこなし、日本代表チームを編成して国際試合に勝つことである。
 「ジーコ監督のサッカー」はあるだろうが、それは与えられた選手を選び、その選手を生かすことによって作られる。強力なストライカーがいないときに、ストライカーを育てることをジーコに注文するのは無理である。
 強力なストライカーがいなければ別の方法でゴールをねらうことを、ジーコ監督は考えるだろう。極論すれば選手を育てるのもチームを育てるのも「ジーコの仕事」ではない。既成の選手を使ってチームを作るのが「ジーコの仕事」である。
 そういう意味で、ジーコ監督のやり方は、これまでの外国人指導者とは違う。その点では、ジーコはゼロからの出発である。
 しかし、現時点でジーコが使おうと考えている選手の大半は、おそらくはトルシエによって育てられた選手になる。そういう意味では、ジーコはトルシエを継承する。
 トルシエが使った選手を生み出した基盤は、クラマーやオフトによって作られている。そういう意味ではジーコは日本のサッカーの過去を引きずらざるをえない。
 歴史とは、そういうものではないかと考えている。


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