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サッカーマガジン 2002年7月24日号
ビバ!サッカー

ブラジルはなぜ優勝できたか
国を挙げての世界一への情熱

 2002年ワールドカップは、ブラジルの5度目の優勝で終わった。すばらしい大会だった。競技内容や運営や日韓共催の成果については、これから冷静に、また慎重に検討しなければならないが、ともあれブラジルの優勝は、結果として順当だったと思う。

決勝戦の2点
 決勝戦の日、6月30日の夜の横浜国際スタジアムで、ぼくの隣の席はNHKのスポーツ番組などで有名な二宮清純さんだった。ブラジル対ドイツの前半は0−0。ハーフタイムに二宮さんが言った。
  「これは1点勝負でしょうね」。
  確かに、きびしい守りあいで1点で勝負が決まりそうな形勢だった。でも、ぼくは、あえて異をとなえた。
 「ブラジルが先に点をとったら3−0になると思いますね」
 力の差が3点もあるような両チームではない。ぼくは追加説明をした。
 「ブラジルのほうが1点とりそうでしょ? ドイツはリードされたら総攻撃に出ますよ。そうしたら、ブラジルは、その裏をついて2点とるかもしれない」 
 後半の22分にブラジルが1点をあげた。 
 予想通りである。ロナウドが出したパスを受けて、リバウドが強いミドル・シュートを放った。ドイツのゴールキーパーのカーンが、ボールの勢いと回転に押されて前へこぼした。そこへ、ラストパスを出したロナウドがつめていた。 
 そのあと、ドイツは次つぎに選手交代をして反撃を策す。ブラジルは冷静に、その裏をついた。後半33分にブラジルが2点目。クレベルソンが右から正面へ出し、そのパスをリバウドがスルーし、ロナウドが2人のディフェンダーの間に出てシュートした。 
 試合は、そのまま2点差で終わり、ばくのヤマカンの3−0にはならなかったが、いつ3点目が入ってもおかしくない形勢ではあった。

ダークホースの優勝
 決勝戦の2点差は順当だったと思う。ブラジルとドイツとの間に、それくらいの力の差はあった。
 ぼくは第1ラウンドのグループリーグが終わった段階で、ブラジルが優勝候補のナンバー・ワンだと思った。その時点で読売新聞の夕刊に、そう書いたから、結果論を言っているわけではない証拠はある。準々決勝でイングランドを破ったときには、ブラジルの優勝を確信した。
 大会が始まる前には、ぼくも多くの解説者に右へならえして前回優勝のフランスを優勝候補筆頭の二重丸にしていた。しかしフランスに二重丸をつけながらブラジルが黒三角だと思っていた。黒三角はダークホース、競馬用語では「穴馬」である。
 競馬では、みんなが優勝候補だと思う馬を「本命」といって◎をつける。2番手だと思う馬を「対抗」といって○をつける。これは人気に従うわけである。「実際にはこれだ」と思う馬には▲をつける。馬券を買うとき、予想した本人は本命でも対抗でもなく穴馬を買う。なぜなら、本命や対抗は、優勝しても配当が少ないが、穴馬は優勝する可能性が高い割りには配当がいいからである。
 今回のワールドカップで、ブラジルは▲だった。なぜ本命や対抗ではなく穴馬だったかといえば、南米予選で苦戦していたからである。しかし実力はあるから▲だった。
 ブラジルがワールドカップの本番で、その本来の実力を発揮する可能性は高かった。なぜなら、ブラジルは伝統的に、世界一をめざすたたかい方を熟知しているからである。

スコラーリ監督の力量
 有力な優勝候補だったフランスやアルゼンチンが、はやばやと敗退した原因は、選手が欧州のトップクラスのクラブでプレーしていて、代表チームで十分に準備をする期間がとれなかったからだと言われている。
 しかし、そういう事情はブラジルでも同じである。ブラジルも主力選手はほとんど欧州のクラブでプレーしている。ただブラジルは、そういうハンデを克服する方法を知っていたのだと思う。
 組み合わせに恵まれた面もあったが、第1ラウンドから少しづつ調子を整え、準々決勝から決勝へとチームの力を上げていった。それが成功した。そういうことができるのは、第一にはプレーヤー一人ひとりの能力が、ひときわ高いからである。個人の能力とその組み合わせだけで、最初のうちは、しのいでいくことができる。
 第二には、ワールドカップの本番になれば、ブラジルは万全の準備をする。国内でいつもは対立していても、大会になれば一致してセレソンを盛り上げる。世界一への国を挙げての熱情がある。
 第三には、スコラーリ監督の手腕が大きい。ロナウドが頭の髪の前の方だけを三角形に残した奇抜な「大五郎がり」にしたときに、スコラーリ監督は「彼も、やる気を示したんだろう」と笑っていた。この冗談に、チームをまとめる監督の自信と余裕を感じた。持ち駒の個性を生かし、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョの3Rを押し立てながら、チームの情熱を一つに盛り上げていった。その力量はたいしたものである。


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