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サッカーマガジン 2002年7月13日号
ビバ!サッカー ワールドカップ・スペシャル

ビッグネームを脅かす新勢力
準泱勝の2試合が示したもの

 準決勝では、過去3度優勝のドイツと4度優勝のブラジルに、第2ラウンド初進出の韓国とトルコが挑戦した。古豪がなんとか面目を保ち、決勝はブラジル対ドイツで南米と欧州の対決。ワールドカップの新しい面と伝統とをあわせて示したベスト4の争いだった。

韓国の敗因は疲労
 6月25日の朝に成田を出てソウルに飛び、夜の韓国対ドイツを見て、翌朝とんぼ返り、その夜のトルコ対ブラジルを埼玉で見た。準決勝2試合の掛け持ちは忙しい。しかし、そのかいあって2試合とも、なかなかの好試合だった。
 韓国は0−1でドイツに敗れた。アジア勢初のベスト4に進出した勢いも、ここまでだった。
 しかし新興勢力がビッグネームに歯が立たなかったのかといえば、そうではない。試合は互角だった。ドイツの勝因はゴールキーパーのカーンの堅守、韓国の敗因は疲労だけである。
 8分に李天秀(イ・チョンス)がいきなり、強烈なミドルシュートを放った。ボールは韓国側から見てゴ−ルの左隅に飛んだ。ドイツのゴールキーパーのカーンは、横っ飛びに飛んで右手の先ではじき出した。この好守がドイツを勇気づけたと思う。「カーンがいるからゴールは大丈夫だ」という自信をドイツの選手たちは確認した。
 その後の形勢は互角だった。ボールキープ率は50%ずつ、シュート数はドイツが16だが枠に飛んだのは6本である。韓国のシュートは6本だが半分が枠に飛んでいる。
 韓国の失点は75分。攻めに出ようとして金泰映(キム・テヨン)が前へ出したパスがノイビルの胸に当たり、そのまま右サイドを持ち込まれてバラックの決勝点になった。不用意なパスミスが致命傷になったが、これは疲労で集中力が一瞬にぶったためだと思う。2試合連続の延長戦を経てきた影響である。

動きの多いトルコ
 トルコも1−0でブラジルに敗れた。この試合は挑戦者のトルコのほうがむしろ優勢だった。ボールのキープ率はトルコが56%で優っている。ただしシュート数はブラジルが18本で、そのうち11本がゴールの枠に飛んでいる。トルコはシュート9本で枠に飛んだのは3本だけである。この種の数字は、必ずしも試合の様子を表しているとは限らないが、この場合はブラジルがチャンスを見つけると、すかさず攻め込み、的確にゴールを狙ったことを示している。
 トルコはしつようにマークし、よく動き、出足鋭く守った。攻めではスペースを狙う縦パス、すばやく動きながらつなぐパスの組み立て、右サイドから食い込んでのクロスと、いろいろな形を展開した。日本は第2ラウンドの1回戦で、このトルコに敗れたが、失点はコーナーキックからのヘディングによるものだけだった。準決勝のトルコを見ると「よくまあ、日本は1点だけに食い止めたものだ」と思う。トルコがベスト4に進出したのは偶然ではない。
 ブラジルの得点は後半の立ち上がり49分である。ジルベルト・シルバが左から持ち込んでロナウドにつなぎ、ロナウドがディフェンダー3人の間をドリブルで入り込みながら、足のつま先でけってシュートした。もっとドリブルするに違いない、そして右からつめている味方に渡すかもしれないと、守るほうが判断に迷うタイミングで蹴った意外性のあるシュートだった。トルコの守りの組織は崩されていない。ロナウドの個人の能力による決勝点だった。

ブラジル対ドイツ
 準決勝の2試合に対する評価は、かなり極端に分かれたようだ。
 ソウルのワールドカップ・スタジアムで、ばくの隣の席はドイツ通の友人だった。翌朝、成田空港についてすぐ日本の新聞を買って、その友人の書いた論評を読んだら「試合内容は、ドイツの横綱相撲だった」と書いている。「そうかな」と、ぼくは思った。今回のドイツは、過去のドイツ代表に比べると単調で変化に乏しい。調子をあげてきてはいるが、これが精一杯でゆとりがない。勝てたのは韓国より疲れが少なかったからであり、一つのミスに付け込むことができたからである。
 ブラジルについても、意見が分かれた。埼玉スタジアムで試合が終わったあと、別の友人が「ブラジルはよくなりましたね」と話し掛けてきた。ばくの見たところは違う。この日のブラジルは、意図していたかどうかはともかく、手を抜いていた。動きが少なく、相手の攻めを待ち受けて個人の守りではね返し、攻めはせいぜい2人のコンビで、個人のドリブルに頼っていた。ロナウジーニョが出場停止だったためもある。決勝戦はロナウジーニョが出て、攻めを活性化させるだろう。そうであれば、この試合で力をセーブしたのが役立つかもしれない、とも思った。
 同じ試合を見て、いろいろな評価が出るのが、ワールドカップのふところの深さかもしれない。
 とはいえ、新勢力の韓国やトルコの力が、かなりビッグネームに肉薄していることは、多くの人が認めただろうと思う。


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