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サッカーマガジン 2002年7月10日&17日号
ビバ!サッカー ワールドカップ・スペシャル

韓国大躍進の背景を考える
勢いを生かした三つの要因

 韓国の快進撃には、まったく驚いた。ポルトガルを倒し、イタリアに延長ゴールデン・ゴールで勝ち、準々決勝ではスペインと引き分け、PK戦を制してアジア勢初のベスト4入りを果たした。この大躍進を生んだのはヒディンク監督の用兵の成功だけではないだろう。

アジア勢初のベスト4
 韓国代表チームと韓国の国民に心から祝意を表したい。韓国の奮闘はみごとだった。
 ワールドカップのベスト4にアジア勢が勝ち残ったのは歴史を変えた快挙である。参加国の少なかった第1回大会で米国が準決勝に出たのを除けば、これまでのワールドカップのベスト4は南米勢と欧州勢が占めていた。
 韓国の躍進は、この歴史を書き替えた。2002年ワールドカップが世界のサッカー地図を塗り替えた大会であることを記録に留めたものだといっていい。
 6月23日付けの日本の新聞は一般誌もスポーツ紙も1面トップで韓国のベスト4進出を報道した。どの新聞も「韓国4強、アジア初」と大きな見出しとカラー写真でページの大半を埋める扱いだった。このような韓国に対する新聞の好意的な報道は日本の大衆の反応をそのまま反映していると思う。
 ぼくの友人は、東京の下町のスポーツ・バーで韓国対スペインの試合をテレビ観戦していた。韓国がやや守勢になったとき、友人がなかば冗談で「テー・ハン・ミン・グッ(大韓民国)」の応援をはじめると、店内のお客さん全員が呼応して韓国応援の手拍子をはじめた。お客さんはみな日本人である。
 「とても感動的でした」と友人はわざわざ電話で報告してきた。日本代表は姿を消したが、日本の大衆は素直に隣の国の韓国を応援している。共催が大衆レベルでの日韓関係の改善に役立ったことは明らかだと思う。

万全の準備の成功
 韓国チームがここまで頑張ることができた原因は新聞などで詳しく伝えられている。
 代表チームの強化を優先させて準備したこと、体力の強化に力を入れたこと、メンバーの選び方がよかったこと、洪明甫(ホン・ミョンボ)を中心にしたのが成功したこと、ヒディンク監督の積極的な用兵がよかったことなどである。
 そういう意見を、まとめてみると、三つに分けることができそうだ。
 第一は、十分な準備ができたことである。
 韓国は今年に入って代表選手をKリーグからはずして、ワールドカップの準備に専念させた。そのおかげでヒディンク監督は、選手を十分に見極めることができ、チームをまとめることができ、コンディションづくりに時間をかけることができた。
 体力づくりに成功したことを強調した記事が多かったが、これを偏って受け取ると弊害を生みかねない。体力が生きたのは基本的な技術や戦術能力のしっかりしたプレーヤーがいたからであって、技術と戦術能力の不足を体力で補ったわけではない。1カ月にわたる連戦をたたかい抜くコンディションを作ることに成功したということである。
 第二の要因は、オランダ人のヒディンク監督の適切な指導である。韓国のサッカーの体質の欠点を修正し、長所を生かした。試合では、チームの勢いを生かしながらリスクを恐れず積極的に勝ちにいく手を打った。名監督の名を不動のものにしたといっていい。

審判をめぐる問題
 第三の要因は、幸運に恵まれたことである。実力が接近した勝負の世界で幸運に恵まれないで勝ち抜くことは困難である。
 その幸運のなかに「審判の判定」が入ってきたために、韓国の成果を素直に評価しない人たちが出てきた。それで話はやっかいになった。
 電話をかけてきた友人の話によると、マニアックなサッカーファンが審判の誤審の場面をテレビのビデオからコピーしてインターネットを通じて流し、韓国の勝利をおとしめる意見を横行させているという。
 トッティを退場させたりスペインのゴールを認めなかったりした審判に対して、イタリアやスペインのサポーターと同じ気持ちになって非難を浴びせるのならまだしもだが、日本が敗退して韓国が躍進したのをうらやんでケチを付けるのなら、度量の小さいことが情けない。
 今度の大会はこれまで以上に審判の問題がひどいと、ぼくも思っている。また問題になっている判定が、韓国の試合に多いことが単なる偶然だと思うほど純情ではない。
 47年間にわたってサッカーを取材し続け、ワールドカップはこれで9回目である。これまでにも、審判をめぐるいろいろな問題があり、その内情が簡単でないことも知っている。
 その経験からいって、ぼくはドイツのゴールキーパーのカーンの意見に賛成である。
 「審判が地元に有利に判定するのは珍しくない。それを乗り越えなければ、ワールドカップで優勝することはできないんだ」


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