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サッカーマガジン 2002年7月6日号
ビバ!サッカー ワールドカップ・スペシャル

日韓の明暗を分けたものは?
トルシエ監督の用兵を考える

 日本は組合せに恵まれながらつまづき、韓国は優勝候補を倒した。揃ってベスト16入りの目標を果たしたのはよかったが、その次の結果は明暗を分けた。トルシエ監督が三都主を前線に起用した理由は何だったのか、韓国が大波乱を起こすことができたのはなぜなのか。

三都主前線の奇策
 6月18日、宮城スタジアムで日本対トルコの先発メンバー表をもらったとき、ちょっととまどった。これまでの試合で2トップを務めていた柳沢と鈴木がいない。代わって西沢が起用されている。サイドの要員が小野、明神、三都主と3人もいる。このメンバーをどう並べるのか、ちょっと考えあぐねた。
 フタを開けてみると、前線は西沢の1トップで、三都主が中田ヒデと並んでトップ下だった。トップ下といっても、パスを出すよりもストライカーとしての役割を期待されている感じだった。
 これはトルシエの「奇策」である。
 それまでの3試合で、鈴木、柳沢の2トップがまったく機能していなかったなら思い切った手を打つ必要がある。しかし鈴木は1ゴールをあげているし、柳沢は前線で動いてスペースを作る仕事をこなしている。十分ではないにしても、このメンバーで勝ってきたのだから、その勢いを生かすためには、基本的には同じ顔触れで突き進むのがいい。
 もっとも、メンバー起用には、外からでは分からない事情があることも多い。たとえば、ケガをしている選手がいても隠している場合がある。
 また、チーム内にトラブルがあって、監督と選手、あるいは選手同士がうまくいっていないこともある。
 しかし、日本チームの場合は、トルシエ監督が前日の記者会見で「ケガ人も出場停止処分を受けている戦手もいない。チームは結束していい雰囲気だ」と言っていた。
 隠された事情があるとは思えなかった。

ストライカーの資質
 三都主の前線起用は、まったく考えられなかったことではない。というのは、強力なストライカーがいないのは、もともと日本代表チームの弱点として指摘され続けてきたことだからである。
 強力でバネのあるストライカーを日本で求めることは難しい。なぜなら、これは筋肉の質に関係していて遺伝によって決まる要素が多いからである。大まかにいうと筋繊維には素早く収縮するがエネルギーがすぐなくなる速筋(白筋)と、ゆっくり収縮するが持久力のある遅筋(赤筋)がある。100メートル走の選手は速筋の割合が目立って多いということである。
 ゴールをあげるには一瞬の動きの素早さと強力なシュートカがものをいう。これは速筋の働きである。
 日本はマラソンで名選手をたくさん生んでいるが、短距離で好成績をあげたことはない。遺伝的に日本人には遅筋の割合が多いのだろうと思う。米国のような混血が多い国だと極端に速筋の多い人間や、極端に遅筋の多い人間が生まれる可能性があるが、日本は島国で混血がほとんどないから、ストライカー向きの人材を求めるのが難しいのではないか。
 専門外の聞きかじりの説を、くどくど説明したが、要するに素早くて強力なストライカーを日本人に求めるのは難しい。しかし、もともとはブラジル生まれである三都主はストライカー向きの筋肉を持っているようだ。テクニックもある。だから前線で使ってみるのは、ひとつの手ではある。

勢いを生かした韓国
 とはいえ、そういう意味で三都主をストライカーとして使うなら、もっと前から準備しておくべきところである。この場になって突然、布陣を組み替えたのには、別の動機もあったのではないか。
 まったくの推測だが、トルシエ監督はチームにショックを与えようとしたのではないかと思う。日本チームは第一目標だったベスト16入りを果たして、ちょっと一安心という気分になった。日本国中の熱気が一気に盛り上がり、選手たちはたちまちスーパースターのようになった。そこに緩みを感じて、トルシエ監督は危機感を抱いたのではないか。
 ともあれ、結果的には奇策は失敗した。
 トルコに先行されて、日本はハーフタイムに2人の選手交代をして、三都主を引っ込め鈴木を出した。しかし、トルコは予想以上にがんばり日本は追い付けない。森島を出したいところだが、3人の交代枠のうち2人を使ってしまっているので、3枚目の札をなかなか切れない。重要な選手が負傷する恐れもあるので、その場合の交代に備えなければならないからである。森島が出場したのは残り5分になってからで、もう手遅れだった。
 同じ日の夜、韓国は延長ゴールデンゴールで優勝候補のイタリアを破った。ポルトガルを破った勢いに乗り、熱狂的な地元の応援を背にした韓国の伝統的な頑張りがものをいった。
 奇策に賭けたトルシエと、勢いを生かしたヒディンクの明暗が対照的だった。


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