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サッカーマガジン 2002年6月22日号
ビバ!サッカー ワールドカップ・スペシャル

入場券問題はなぜ起きたか
開催地無視の地球商業主義

 プラチナ・チケットと言われたワールドカップの入場券の売れ残りが、大会が始まると現われた。どの会場もところどころに空席がある。日本の会場は全部売り切れたはずだったのに、どうしたのだろうか。手を尽くしても切符を買えなかったファンが歯ぎしりするのも当然だが…。

三つの不手際と無能力
 ワールドカップ前半戦は、波乱あり、熱闘あり、レベルの高い技術と戦術ありと、すばらしい試合が続いている。ビバ!サッカーでも、そういう試合の内容を取り上げたいのだが、ここは、ぐっと、がまんして、入場券問題を取り上げることにしよう。
 入場券問題は、すでにヤマを越えているが、これまでのマスコミの報道を見ると、ちょっと焦点がずれたところがある。ずれた報道が、そのまま後世に残るんじゃないかと心配である。
 わがビバ!サッカーは「正しい独断と偏見」にもとづいて、サッカーの歴史に記録を止めることを使命としているので、少しタイミングは遅れるが、入場券問題の本質を考えてみたいと思う。
 2002年ワールドカップの入場券については、大まかに言って3つの問題が起きた。
 第一は、記名式にして譲渡不可能にしようとしたことである。入場のときに券面の氏名をいちいちチェックするのは現実的でない。そんなことは、はじめから分かっていた。愚かな手間であったことはいまとなって明らかである。
 第二の問題は、入場券の現物の到着が遅れて開幕直前に大慌てしたことである。
 第三の問題は、売り切れだったはずなのに、始まってみると各会場に空席が目立ち、隠されていた残券が現われたことである。
 表面だけを見ると、最初の一つは政策的な無能力で、あとの二つは事務的な不手際である。

空席は仕方ないが… 
 日本では、入場券が手に入らないと異常な大騒ぎになった。抽選に応募し、スポンサーになった新聞を購読し、ハンバーガーばかり食べ、インターネットに接続しつづけても、ついに1枚も手に入らなかったという人もいる。そういう人たちにとっては、大会が始まってみると残券が降って湧いたように現われ、会場に空席があるのは、腹に据えかねることだろう。多くのマスコミの論調も、空席を指摘して組織委員会の不手際を批評するものだった。 
 しかし、過去の大会では空席があるのは、ふつうだった。1980年代までの大会では、自国あるいは人気チームの出場する試合以外は、売り切れになるほうがまれだった。売り切れの試合でも必ず一部に空席があった。前回のフランス大会でもそうだった。空席はスタンドのコーナーと裏正面の中央部にまとまってある。これは、各国とスポンサーの割り当てた枠の未消化分だろう。 
 ワールドカップは開催国の人だけが楽しむものではない。世界各国からファンがやってくる大会である。だから、入場券はすべての国のファンが買えるようにしなくてはならない。そのために、その残券回収がうまくいかないこともあるだろう。 
 ただし、今回の場合は、インターネットを利用するなど新しい販売方法を試みたのだから、IT活用で残券を処理する方法はなかったのかとは思う。でもITへの移行は過渡期だから、全面的に新技術を利用できなかったにしても、止むを得ないところがある。

グローバリズム
 こういった問題の原因は、FIFA(国際サッカー連盟)が入場券の扱いをバイロムという実績のない会社に委託したことにある。この会社はメキシコ人が経営し、英国の地方の町に本社を置いているという。
 ワールドカップのテレビ放映権料を目当てにする連中がコネを頼りにFIFAに集まってくる。その結果、能力も経験も乏しい会社が利権を得たのであれば、不手際が続出しても不思議ではない。
 さらに、もっと本質的な問題がある。それはグローバリズムである。
 1930年にワールドカップがはじまって以来、大会は主として開催国のサッカー協会の手で、入場料収人をもとに運営されてきた。
 ところが、莫大なテレビ放映権料か入るようになると、FIFAは利益になることは自分の手で直接、取り仕切るようになった。そして実務を代理店に任せた。
 宿泊と入場券を取り扱ったバイロム社はその一つである。世界をまたに掛けたグローバルな仕事だから開催国が扱う必要はない。グローバルな基準で仕事ができる会社がいいという理屈である。
 しかし、宿泊や入場券の販売は開催地元の事情をよく知っていないとうまくできない。開催国に任せて、開催国の組織にグローバルな考え方を学ばせるほうがいい。グローバル・スタンダードと称して、能力の乏しい連中が地元を無視した考え方を押しつけてくるから問題が起きる。
 この問題はワールドカップが終わったら、いろいろな面で徹底的に研究する必要がある。


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